148: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:51:36.94 ID:sg2qAd8w0
穏便に済ませるならば、自ら事務所を辞めてもらうというのが理想的ではある。違約金が発生するだろうが、移籍金代わりに346プロでそれを持てばいい。おそらく、そこまで大した金額にはならない。
しかし、彼女は事務所の寮(実際はボロアパートを事務所名義で借り上げているだけだ)に住んでおり、最低保障のわずかな賃金で日々の暮らしをやりくりしている。
今の事務所を辞めるというのは、生活の基盤を失うと同義だ。あまり積極的に大きな変化は望まないだろう。話がこじれて、こちらの事務所に悪印象を持たれても困る。
まず、いつかの雑誌記者に電話をかけた。
「どうも、以前はお世話になりました」
わざとらしいほどに友好的な声を作って話しかける。
電話の向こうから、怯んだような気配が伝わってきた。
《……あっしも、あんたには悪いことしたとは思ってるんですよ》
例の写真の件を言っているらしい。
あれを買い取らせた、ほんの数日後に被写体のアイドルが引退を表明した。この男の中でどのようなストーリーが出来上がっているのかは知らないが、うしろめたさを感じてくれているのなら好都合だ。
「その件は水に流して、ひとつ頼みたいことがあるんですよ」
《頼み? なんです?》
「ある事務所の、悪評を流すってできますかね?」
短い沈黙が流れる。それから、ふうっと息をつく音が聞こえた。
《あんたは、天国には行けませんね》と記者は言った。
ありがたい話だ。長い階段を上らずに済む。
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