130: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/10(日) 18:57:27.06 ID:AfpWDvGb0
それからどのくらい時間が経ったろう。ドアが開かれ、通路の光が薄く差し込んだ。
「あらら大惨事。ほたるちゃん無事?」
志希さんの声だった。ステージが終わったんだろう。
「……足元、気を付けてください。ガラスの破片が」
「うん、ありがと」
志希さんは意に介した様子もなく、ブーツの底でジャリジャリとガラスを踏んで、まっすぐ私の前にきた。
「ねえ、今そこでプロデューサーたちが話してるの聞いたんだけど、ほたるちゃんが夕美ちゃんの代わりにステージに出るって言ってるって、ホント?」
「……本当です」
「なんで?」
「私の……せいですから」
志希さんが私の胸倉をつかんで引き寄せた。暗がりに浮かぶ大きな目に、はっきりと怒りの感情が宿って見えた。
「夕美ちゃんは“あたし”をかばって、“あたし”の代わりにケガをしたんだよ。これが、ほたるちゃんのせいだっていうの? ほたるちゃんにはそれがわかるの?」
「ごめんなさい」
「謝ってないで、答えてよ」
「……ごめんなさい」
「だから――」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
小さく舌打ちの音がして、私をつかむ手に力がこもる。
叩かれるんだろう、と思った。そのとき、
「一ノ瀬さん」
部屋の入り口から声が届く。プロデューサーさんの声だった。
「白菊は、起きたことが自分の体質によるものか、そうでないか、区別はつかない」
「……ずいぶんはっきり断言するんだね。どうしてキミに、そんなことが言い切れる?」
「前に所属してた事務所に、白菊をクビにさせるよう仕向けたのは俺だ。だけど白菊はそれに気付かずに、自分の不幸のせいだと思っているから」
世界がひっくり返ったような混乱に陥る。
この人は今、なんて言った?
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