121: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/10(日) 18:42:20.06 ID:AfpWDvGb0
周子さんがお茶をひとすすりし、ほうっと息をついた。
「……志希ちゃんは、アタマがよすぎるからなのか、なんなのか知らないけど、ふつうの人じゃ見えないもんまで見えちゃうんだよ。嫌でも。てゆーか嫌だろうね」
「嫌、ですか?」
「うん、天才の宿命ってやつだね。他の人が死ぬほど努力してもたどり着けないようなところをお散歩感覚で越えていくんだから、妬まれるし、嫌われるよ。まあ、良識ある人は思ってもわざわざ表には出さないだろうけど、志希ちゃんにはたぶん、顔だけは笑って調子のいいこと言ってる人が腹の底ではどう思っているのか、なんとなくわかっちゃうんだ。それってきっと、しんどいよ」
周子さんが手に持った湯呑に目を落とし薄くほほ笑んだ。
「夕美ちゃんは表も裏もないから、裏を読む必要なんてない。言ったことはそのまま言葉通りに受け取ればいい。そーゆーのが志希ちゃんにとっては、すごく楽なんじゃないかな。……あたしは夕美ちゃんみたいにはなれない。どうしてもアタマで考えちゃうからね、これはもう、どうしようもない」
「……よく見てるんですね」
周子さんが肩をすくめる。
「これぜんぶあたしの勝手な想像だから、あんま信用しないでね」
「でも……志希さんは、周子さんのお話しているときも、とても楽しそうにしてますよ」
レッスンの合間のちょっとした雑談で周子さんの話題になったとき、志希さんの声や表情からは深い親しみの色が感じられた。特別というのなら、周子さんも志希さんにとってはそうなのだと思う。
周子さんは少しのあいだきょとんとしたあと、にんまりと笑った。
「……そっかそっか、それは嬉しいね」
それは、嬉しそうというよりは、『いいからかいの種を得た』というような性悪そうな笑みで、私は言ってしまったことを少し後悔した。志希さん、ごめんなさい。
202Res/248.44 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20