104: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/02(土) 10:46:29.52 ID:Y+SAhLWq0
ひと通り園の中を眺め終えて、私たちは出口の近くにあるお土産屋さんに入った。
さまざまな種類の種や小さめの鉢植え、それに植物の図鑑、お花をモチーフにした雑貨などが売っている。
夕美さんが真剣な表情で種を選んでいた。可能なものなら全種類買っていきたいとでも思っているようだった。
私は必要なものはなかったけど、なんとなく記念に、お花柄のついたメモ帳とシャープペンを買った。
楽しい時間は流れるのが早いという話は間違いではないらしく、植物園を出ると、沈みかけた太陽が世界をオレンジ色に染めていた。
夕美さんが「よかったら、うちで晩ごはん食べてく?」と言った。
それはとても魅力的な提案だったけど、私は遠慮した。せっかくここまで何事もなく終えたのに、夕美さんのおうちで不幸を起こすわけにはいかない。
「そっか」と、少し残念そうに夕美さんが言った。「今日はありがとね、楽しかったよ」
「こちらこそ、とっても楽しかったです」
「そうだ、これあげる」と言って、夕美さんが小さな包みを渡してきた。さっきのお土産屋さんで買ったものらしい。
開けてみると、銀のネックレスが出てきた。お花を模した小さいトップがついている。カモミールの花だ。
遠慮するべきだと思う。それほど高価なものじゃないにしろ、今日はたくさんのものをもらい過ぎている。
だけど、この1日でわかった。夕美さんは意外と強引なところがある。「受け取れません」と付き返しても、たぶん聞きはしないだろう。
なによりも、私が喜んでいた。とてもとても嬉しいと思っていた。
だから私は、夕美さんの前でネックレスをつけてみせた。
「よく似合ってるよっ」
夕美さんがぱっと顔を輝かせる。お花が咲くような――とは、きっと夕美さんのためにある言葉なんだろう。
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