103: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/02(土) 10:45:34.50 ID:Y+SAhLWq0
園の敷地内に小さな売店があって、夕美さんが「アイス食べよっ」と言って私を引っ張っていった。
私は昔から好きでたまに食べている棒つきアイスを買った。夕美さんも同じものを選んだ。
ベンチに腰掛け、慎重に袋を開ける。私は開けようと力を入れた拍子に中身が吹き飛んでしまったり、ちゃんと開ききっていない袋にアイス本体がひっかかって棒だけが抜けてしまうということがよくあったから。
「あ――」
無事に取り出せてほっとしたのもつかの間、ふたくちほどかじったところで、アイスが崩れて棒から落下していった。
アスファルトに散った残骸に、すぐさま勤勉な引っ越し業者のように蟻が集まり始める。私は恨めしく思いながらじっとそれを眺めた。
……ううん、ふた口も食べれたんだから、十分って思わなきゃ。
「あ、落としちゃった? 服にはついてない?」
すでに自分のぶんを食べ終えている夕美さんが訊ねる。
「はい……服は無事です」
たしかに、お洋服が汚れなかったのは幸運といっていいかもしれない。アイスだってぜんぜん高いものじゃないし、落ち込むようなことじゃない。
「そっか、よかった」
それから夕美さんが「はい」と言って、食べ終わったアイスの棒を差し出してきた。
捨ててきてってことかな? と思いながらそれを受け取って、私は初めて、長年食べてきたこのアイスが『当たり付き』だったと知った。
「……もらっちゃっていいんですか?」
「ふたつは食べ過ぎだからね。聖さんもほたるちゃん太らせようって言ってたし、ちょうどよかったね」
「太らせようとは言ってないと思いますけど……」
当たり棒を水道で軽く洗ってから、お店で新しいアイスに引き換えてもらう。今度は落とさずにぜんぶ食べることができた。
「当たりって、よく出るものなんですか?」
「珍しいと思うよ、私もあのアイスでは初めてだったかな」
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