小日向美穂「神様にはセンチメンタルなんて感情はない」
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名無しNIPPER
[saga]
2018/04/24(火) 22:29:21.87 ID:WQSNhX7B0
お化け屋敷の入り口はプレハブ小屋みたいな安っぽい作りだったけど中に入ると真っ暗で道が狭く、雰囲気は案外しっかりしていた。
背後で受付のお姉さんの声が聞こえた。「振り向かないで歩いてくださいねー」
卯月ちゃんが私にぴったりくっついてぷるぷる震えながらついて来る。
私はどちらかというと(早くお化けが出てこないかな)と思いながら暗闇の通路に目を凝らしていた。
それというのは要するに、卯月ちゃんがびっくりして私に抱きついてきたらいいのになっていう下心のはなし。
最初の曲がり角を過ぎたところで急に冷たい風が顔に吹きかかってきたので卯月ちゃんが「ひゃあ」ってかわいい声を上げた。
そして私は、その風のなかにふいに懐かしい匂いを見つけてハッと息を呑むのだった。
しめった草木の匂い。
通路の奥のほうにぼんやり淡い光が広がっていた。
私たちがそろりそろりと近づいてみるとそれはひとつのパノラマだった。
「なんだろうね、ここ?」卯月ちゃんが私の腕にしがみつきながら言った。
けれど私には見覚えのある景色だった。
2本の大きな樹が……
○
どうやらうっかりしていたのは受付のお姉さんだけではなかったらしい。
そういえばあの人はここがお化け屋敷だなんて一言も言ってなかった。
「でも、遊園地のパンフレットにはお化け屋敷って書いてありましたよ」
「そうだっけ……」
私は私たちが思い出のなかに迷い込んでしまったことについて考えようとした。
けれど考えてみれば私たちが遊園地に遊びに行ったこと自体がひとつの大きな思い出にすぎないので、細部についてあれこれ突っ込みを入れるのはどのみち無意味なことだった。
人は多かれ少なかれ思い出のなかに生きようとするものだ。
それがたとえ天使の作り出したにせものの記憶だとしても。
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