高垣楓「おでん」
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15:名無しNIPPER[saga]
2018/04/15(日) 00:09:18.54 ID:ah/HvYxA0

姉ちゃんがぐい呑みを空にする横で、今度は兄ちゃんがあちこちを眺め回している。
首を傾げて悩む様子に、俺の方も首を傾げた。

 「どうかしたか、兄ちゃん」
 「あ、いえ。大将。この店、何て名前なんですか?」
 「は?」

名前? そんなモン考えた事すら無かった。
ここで屋台をやり始めて数年になるが、これまででそんな質問をされたのも初めてだ。
常連の連中は酒飲んで騒ぐだけ騒いで帰るし、
一見の客はこの店の事なんぞ覚えちゃいないだろう。
結果として俺はいつまで経っても無名の屋台を回してたって訳だ。

 「そういや無ぇな、名前」
 「付けましょうよ、名前。立派な暖簾もありますし、ほら、『おでん』とかだけでも」
 「一マス余るな……」
 「大将。名前は大事ですよ」

兄ちゃんが眼鏡を拭きながら首を振る。

 「マーケティングの観点からも、認識しやすいシンボルは必要不可欠です。幾つか例を挙げますと」
 「姉ちゃん。飲ませろ」
 「まぁまぁお酒どうぞ」
 「ちょ、楓さ、んくっ」
 「良い飲みっぷりだぜ、眼鏡の大将」

姉ちゃんが兄ちゃんの口元へぐい呑みを力強く押し付ける。
口の端から豪快に酒を零しつつ、なみなみと注がれていた中身は見事空になっていた。
天晴れ。


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