荒木比奈「ジャスト・リブ・モア」
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7: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:05:57.22 ID:BEFLqt5g0

原稿のデータは保存せずに、ペンタブの電源を落とした。それから、涙を止める術のない私は、枕に顔を埋め、ただひたすらに情報をシャットアウトした。何も考えないように頭の中を空っぽにして、ただ時間が過ぎるのを待った。

気がついたら眠っていた。起きたら胸と頭が痛かった。気分は最悪のままだった。

ベッドの上から、ペンタブに向かって目を向ける。でも、原稿を進める気なんて全く起きなかった。……明日取りかかろう。大丈夫、きっと明日になったらまたいつも通りの私になって、いつも通り〆切りギリギリには間に合うだろうから。

『明日から本気出す』と決意したところ、乾いた音がした。どうにも間抜けなそれは、私のお腹から出た空腹のサイン。

どれだけ気分が落ち込んでも、関係なしにお腹は減る。だったらせめて、少しでも良いものを食べて、少しでも気分を戻そう。

行きつけのラーメン屋にでも行こうと、財布を手に取る。と、妙にそれが薄くなっていることに気がついた。ああ、昨日の出費のせいだ。調子に乗って散財してしまったんだった。

……しょうがない。銀行に寄ってから、ご飯にしよう。

外に出る。もう夕方になっていた。太陽は沈みかけているし、吹く風はまだ冷たくて、ジャージとTシャツだけだとまだ肌寒い。

ポケットに財布と携帯電話、家の鍵だけを入れて、階段を下りていく。

道路に出て、目的地に向かって歩いて行く。オレンジがかった空は、どんどん紫色に染まっていっている。

道すがら、多くの人とすれ違い、追い越された。部活帰りの高校生。バイトに向かう大学生。仕事終わりのサラリーマン。食事に向かうOL。家から離れるほど人の数は増えていって、通りに出ると、大勢の人が、私の隣を通り過ぎていく。たくさんの人と、すれ違って、追い抜かれていく。

半ニートの私とは違って、みんながみんな、キラキラして見えた。人々とすれ違う度に、「私はこのままで良いのだろうか」という、言いようのない不安が、足に纏わり付いてくるようで、踏み出す足が、どんどん重くなっていく。



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