荒木比奈「ジャスト・リブ・モア」
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6: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2018/04/09(月) 00:05:25.22 ID:BEFLqt5g0

ゲロ音がトイレからも漏れ出しているので、私は部屋に避難した。彼女が青い顔で出てくる

「マジごめん…」

「いいっスよ…」

「吐くだけ吐いたらみたいで本当にごめん…」

吐き終わって(律儀にトイレの掃除もした)彼女が、申し訳なさそうに謝り、そうして帰って行った。今日は、大学でサークルの活動があるらしい。遅刻は免れないみたいだけれど。

玄関で見送った後、部屋に戻る。冷蔵庫の中、昨日食べきれなかったケーキを、遅めの朝食に決めた。

甘いものを食べているはずなのに、さっきまでの思考が邪魔をして、苦い気分になった。

ケーキも食べ終え、チキンの骨を片付け、ゴミをひとまとめに。とりあえず元の部屋の綺麗さは取り戻せた気がする。

さて、と。

誕生日気分はもう終わり。これからは、描きかけの原稿を進めないと。それに、何かに没頭していないと、また見えない現実に押しつぶされてしまいそうになる。

逃避するように机に向かい、ペンタブを起動させ、筆を握り線を走らせていく。しかしどうしてか、作業スピードは今までで最低なくらいに遅かった。


今描いているのは、王道もいいところのボーイミーツガールもの。恋する少年少女の、夢を叶えるまでを描いた全32ページ。「物語はいつも出会いから始まる」という信念の下、自分の好きなところを詰め込みまくったストーリー、だけれど。

これまでよりも筆が乗らない。これまでより、自分の描いた物語に魅力を感じられない。そんなハズはない、とネームを読み返していく。

夢に向かって頑張る姿を描いたんだ。やりたいことをひたむきにする姿を描いたんだ。ネームを切るときは、気分が乗っていたのに。でも、どんどん心が、締め付けられるようになって、頭が痛くなって。

「……あれ?」

気がついたら、涙を流していた。

何度目元を拭っても、ジャージの袖口の染みが広がるだけで、涙は一向に止まらない。

ああ、もう、最悪の気分だ。



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