54: ◆tues0FtkhQ[saga]
2018/03/31(土) 12:21:03.31 ID:X17K8DuQ0
僕の身体はもう動かなかった。思考もほとんど止まっていた。
忍の身体がもう一度僕の横をすり抜けていこうとする。
僕はその背中を呆けたように見つめて、捕まえられなかった忍の心まで離れていってしまう気がした。
縋りつこうと、何の力もなく僕の手が伸びる。
僕の中の何かが、まだ諦めてないとでも言うようだった。
やっぱり納得できない。忍のことも、自分のことも。
このままさよならなんて、そんなことあっていいはずがない。
「待って!」
急に飛び出た言葉に自分が驚く。
忍もびくっと身体を震わせて、顔だけこちらを伺った。
とりあえず次の言葉をつなげなくちゃ。それだけでなんとか気持ちを持ち直す。
「忍っ、出発は何時?」
「え、えっと。い、1時間後だけど……」
「絶対に追いつくから、ホームで待ってて!」
忍を音楽室から追い出して、そう叫んだ。
本能に理性が追いついていなくて、何にも考えていなかった。
もしかしたら一緒にいられる時間をただ増やしたかっただけなのかもしれない。
そんなことないだろうと、必死になって頭で考える。
走って追いつくことを考えると、今から20分ほどの時間がある。
大好きな女の子が旅立とうとしている時に、僕は何の花も言葉も添えてやれないのか。
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