53: ◆tues0FtkhQ[saga]
2018/03/31(土) 12:19:46.13 ID:X17K8DuQ0
「……アタシは、絶対にアイドルになりたいの」
もう一度、想いを確かめるかのように忍は呟く。
夢と意志の欠片を紺碧の瞳に映して。
あぁ、こいつは。もう答えが出ているんだ。
その目を見てしまって、僕はもう何も言えなかった。
どんな異論も忍には届かない。長い間、悩んだ想いの分だけ決意は重かった。
かっと沸き上がった気持ちがすっと熱さを失っていく。
それが、誰かを想うわけでもなく、自分だけのワガママでしかないと気付いてしまった。
振り上げた拳を降ろすように、僕は忍から視線を逸らした。
「それでね……忘れ物を取りに来たんだ」
「ずっと一緒に努力してきた仲間だからね、置いてけなくてここに寄っちゃった」
そっと僕の横を通り過ぎると、置きっぱなしだったシューズを大切そうに持ち上げる。
忍は振り返って僕と向き合うと、悲しそうに笑みを浮かべた。
「本当は会わないまま、行こうと思ってたんだけど……」
「ずっと一緒にいたのに、今更逃げられないなって思って」
「だからゴメン、そしてありがとね」
そんな顔されたら僕は何にもできないだろう。
本音を隠して背中を押すことも、せっかく気付いた本音を曝け出してしまうことも。
応援したら好きだった人は、近づくことも叶わない遠いところへいなくなってしまう。
好きだと伝えたら、何にも変わらなくても、きっとせっかくの決意を汚してしまう。
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