工藤忍「おかしなうさぎは夢見て跳ねる」
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55: ◆tues0FtkhQ[saga]
2018/03/31(土) 12:22:21.21 ID:X17K8DuQ0


 音楽室を何一つ見逃さないようにゆっくりと見渡す。
 忍が作った広いスペースの跡、アコースティックギター、マイク、アンプ、ノートパソコン。
 そこにはいつも通りの光景があった。


 音楽だけでつながってきた僕らの日常が残っていた。


 あぁ、やっぱり。これしかないんだよな。
 もうどうあってもいつも通りには戻れなくて、その最後の瞬間を僕は任されてる。
 キザすぎると思うけれど、それでもこの閃きに託してみたくなった。


 応援したい、応援したくない。好きだって伝えたい、伝えたくない。
 不器用な僕の中ではいろんな想いがせめぎ合って、たったひとつの答えになりそうもない。

 言葉で上手く伝え合えないなら、せめて唇に唄を乗せて。
 「旅立ち」も「恋」もカタチにならない想いとはなにか違う気がした。


 「夢」を歌おう。


 汗を浮かべて必死に踊る忍の姿が浮かび上がる。
 いつだって頑張って考えて探してきたじゃないか。
 何度だって失敗して、間違えて迷って、それでも今日まで歩いてきたじゃないか。

 そんな忍に、頑張ってきたねって心の底から言ってやろう。


 背中を押してあげられなかったあの日も弾いていた曲。
 諦めた夢の残滓を抱えながら、ずっと弾き続けてきた曲。

 アコースティックギターにマイクを寄せる。
 録音の設定を決めて、MP3プレイヤーは空にしておく。

 一発録りの大勝負だった。


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