81:1[saga]
2018/03/25(日) 13:50:04.04 ID:CE9RRJAi0
70.帰り道
「有馬先生は宮園さんが好きだったんですよね」
私は前を歩く唯先輩に語りかける。唯先輩は私の方も見ずに、
「そうだね」
「それって……本当に……」
「有馬先生は強いから」
唯先輩は振り返り、よそよそしく笑った。
「有馬先生はね、いつも誰かのためにピアノを弾くんだ。お母さんのため、椿さんのため、凪ちゃんのため、ライバルのため、もちろん宮園さんのためにも」
「私は……!」
私は唯先輩の袖を掴む。
「怖く、なりました。私は弱っちいから。なぜかふと唯先輩がいなくなってしまうような気がして、怖くなりました。私、唯先輩がいなくなったら……」
いなくなったら。
いなくなったらどうなるのだろう。
いなくなったら、演奏家の私は死ぬかもしれない。メトロノームに戻るのかもしれない。
あなたといると、私は強くなれた。
あなたといないと、私は弱くなる。
私は唯先輩といたかった。それだけの些細な、とても贅沢な願い。そんな願いが叶い続ける日々が、どうしようもなく愛おしかった。
私は唯先輩の手を握った。
「梓ちゃんがいなくなったら、私はピアノをやめるよ」
あなたは、私だけが知っている表情をしていた。
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