80:1[saga]
2018/03/25(日) 13:47:22.59 ID:CE9RRJAi0
69.
「おいしいぃ〜〜!」
山のように積まれたお菓子を前に私は少したじろぐ。
「梓ちゃんも食べてみなよ〜」
「い、いただきます」
適度に甘いサクサクなそれに、私の顔は自然に緩んだ。
「お代は有馬先生にツケておいてください!」
可哀想に、有馬さん。
「了解したよ。有馬君も君たちに奢れて光栄だろうね」
おじさんはさらにいくつかのお菓子を持ってきて、山の中に加えた。
それにしても唯先輩はすっごいおいしそうにものを食べる。作った側も、こんな笑顔をされると嬉しくなるだろう。
「君が来るのは久しぶりだね。覚えているかい? 確か8年くらい前だったかな」
唯先輩は首を傾げている。
「君が初めてコンクールに出た帰り道だよ。有馬くんと君の両親と妹さんの5人で来たんだ。君はあの頃から変わっていないね」
「えへへ、それほどでも〜」
「褒められてないですって」
私は窓際に飾ってある写真に気づいた。おじさんは私が凝視しているのを見て、それを取ってきてくれた。
「これが昔の、中学生時代の有馬君だよ。彼も今とあんまり変わらないがね」
有馬さんと肩を組む茶髪の男性、椿さん、そして金髪の女性の4人がピースをしながら写っていた。
「この人が……宮園かをりさんですね」
眩しいくらいに明るく笑う彼女を、おじさんはそっと撫でた。
「そうだ。かをりは有馬くんと話すようになってから変わったよ。今は、こうしてこの店を見守ってくれているんだ。私たちがあの子を絶対に忘れないように、ここを訪れた人たちがあの子を忘れないようにしているかもしれない」
「覚えてます」
唯先輩はカヌレを眺め、言った。
「有馬先生は、ずっと覚えてる。私が有馬先生に出会ってから8年間ずっと、有馬先生の心の中にあの人がいるのを側で見てきました。有馬先生の演奏をカラフルにしてるのは、心の中で大事にしている思い出だと思います」
あの演奏。
合宿の時に聞いた、あの演奏。
有馬さんの音には、想いがこもっていた。感謝と憧れ、そして昔の恋心。色褪せない思い出が、彼の音にはこもっていた。
自分の音に想いをこめる天才ピアニスト。それはとっても素敵で、ロマンチックだった。
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