33: ◆L3c45GW7tE[saga]
2018/01/05(金) 23:05:51.51 ID:6rZ5mY140
……。……。どれぐらい漕いだろう。ずっと。ずっと。しばらくチャリを漕いでいた。はぁ、はぁ、はぁ。疲れてきた。傾斜がミリ単位少し高くなったのか動きずらいや。小さい3階建てが多く目立つ。町の変化も薄くなっていき、景色が大胆で大金をかけたものじゃなくなった。
郊外に来たようだ。
小さい一軒家やマンションが大半を占めるようになり、全国チェーン店の看板も多くなり興奮がなくなってきた。
左右から見える田んぼも数量的に多く見られる。
オレンジ色の街灯も先ほどよりはなくなってきたようで路上を飾るのみ。町も電気も付かないしなんだか暗くなったな。
俺達の明るさは先ほどと比べて小さくなった。星を見るとその変わらぬきらめきに羨望の目をあげる。でも六花の元気が戻って、それだけでも俺はうれしいよ。そういえばなんであいつは悩んで……。ああ、勢いが落ちるな、止めよう。後からでもいいや。六花も掴む腕が緩んでいる。つまらないんだろう。世界は静止している。
暗い中。
俺と。六花と。ただ世界に二人。
この町の住民は今度こそ町に飲まれて消えてしまった。
ただ2人寂しくぽつんといる。
他にいるのは、街灯と、夜の深淵だけ。
もうここには誰もいない。
誰にも見られない。誰にも感知されない。
確かに一人は寂しいけど、代わりといった変な感触に包まれる。
誰かに見られることのなく、目の前の、闇に抱擁されている気分を味わう。
一人じゃないよって、励ましてくれる。
大好きだよって、俺の体に闇が染み込む。
俺はそんな世界が好きだ……!
そう思うと途端に世界が変わる。
誰もない世界のはずなのに、ひそひそと誰かが俺にささやいている気がする。
勿論そんなのいないし架空の話だけど。
分かっているけど、時々分からないときがある。
そう、今だ。
始まった。
世界がおなじみの世界ではなくなる。オレンジ色を発光し幾多の平行線に追従する街灯も、それ自身の上半身の背を曲げて、それ自身をまるで手をこまねくように、光る頭を何度もお辞儀で招待されている。たくさんの街灯に一斉に挨拶されている。そして俺が笑顔になるとたくさんのカラフルな風船が真っ暗な俺の横を飛んでいく。現実世界のどこかを水泡に反映したシャボン玉もふわっと飛んでいく。真夜中の見えない夜が突然カラーでお城の目立つ遊園地“テーマパーク”に変わり俺たちを見えない世界に誘ってくれる。見知らぬ通行人や車の通過する群れは舞台役者。俺達のこの一瞬しかないムードのために歓喜で溢れさせるべく世界がわざわざ配置してくれた、夜空の見えない上から糸を垂らして動く影役お人形。慣れているんだ。この光景に億劫は感じていない。むしろ居場所に案内されているような優しさを感じた。
誰かが俺たちをここに来るように導いているんだ……!この世界を。
その光景を見ると、空が真オレンジか紫色の一色に染まったり別のに変わったりしている。
走っている横からドラゴンがやってきた。黒いドラゴンが。大きな翼を広げて黒い鱗を立派だと思う。その巨大な翼は町の建物をホログラムのように当たっても透かしている。俺に一目目を合わせて挨拶される。そして翼をばたつかせてこの巨大な夜空の真上へと消えて行った。
俺の耳の隣から少女たちの嬉しい騒ぎ声が騒いでいる。横を見ても誰もいない。おそらく魔法で消えたのであろう。そう思った方が合理的だった。ぼやけた暗闇から白い輪郭が人型に動いて。前へと飛んでスッと消えた。それはまさしく魔法少女だった。
騒いでいたのはそれだけじゃない。暗闇の中に動物や怪獣の鳴き声も変な音声に混じって映っている。マンションの玄関の奥でモンスターがうろついている。空気の亀裂を起こしたのはモンスターが喧嘩を始めているのだと思う。誰もいない公園には妖精たちが集まってダンスを踊っている。閉店している真っ暗な店の中では幽霊たちがお買い物を楽しんでいる。ぼやっと黄色く光る月を見上げると、その陰に自転車を漕いで浮くなぜか俺と六花の姿。
なんだか子供みたいだな。笑えるや。中二病は恥ずかしくて嫌だったけど、俺はこれに関しては寛容だった。中二病は世にないって否定したかったけどそれを認めた瞬間目の前が灰色になってしまった。そして自分の体すらびくびくと痙攣して、動かなくなりそうで怖かった。このままではこの世界どころか自分ですら本当に灰になってしまいそうでどうしてもこれぐらいは否定しきれなかった。でも認めてよかった。誰にも迷惑かけていないならなおさら。闇の中一人ぼっちで寂しい心の間を慰めてくれる大好きなパートナーたち。夜空を知るといつもこうなるんだ。名前を付けてないけど昔からずっといる、年々ごとに交代していくキャラクター達。でも消えた皆にもまた会いたいって思う。また遊びたいって。急に心の中で嫉妬が不安を警戒する。え?そんなに好きなら六花はどうだって?俺が俺に質問する。勿論好きだ。でもどちらかって選択を迫られるとどちらも嫌だから。両方好きかな。
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