8: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/01/04(木) 18:45:01.16 ID:R409ZOpN0
◇
「白菊さん。今日はもう、このぐらいにしておいたほうがいいよ……?」
「いいえ、もう少し。もうすこしだけ、やってしまいたいんです」
消灯の近づいた、誰もいないレッスンスタジオ。すっかり暗くなった窓のそばで、白菊さんがもう少し、もう少しとレッスンを続けようとする。
「もう、消灯が近いから―――ずっと残っているとスタッフの人のご迷惑になっちゃうよ?」
ようやく時間に気付いた白菊さんが、荒い息をついて、ようやくレッスンを中止することに応じる―――
白菊さんはデビュー前。
だんだんとレッスンは難易度が上がっていきます。
そんな中、私と白菊さんの間で、こんなやり取りをすることは増えて行きました。
彼女は与えられた課題を絶対にあきらません。
自主的に居残りをして、『できない』をそのままにせず、必ず克服しようとします。
その姿勢自体は、とても素晴らしいことでした。
だけど、白菊さんのその姿勢は徐々に行き過ぎとなっていきます。
与えられた課題がどうしてもできないとき。
自分の中で満足がいかないとき。
そんなとき、白菊さんは何かに突き動かされるように、鬼気迫る様子でレッスンに打ち込みます。
どんなに時間がかかっても、どんなに疲れても、『できない』を克服しない限り絶対にレッスンをやめようとはしない。
そんなことがだんだんと増えてきたのです。
もしも誰かが止めなければ、彼女は文字通り倒れるまでレッスンを続けるでしょう。
今はまだ、私達の制止を聞いてくれます。
だけど、いつか私達が制止しても、ひそかにレッスンを続けるようなことになってしまうのではないか?
私はそれが心配で、白菊さんを目で追うことが増えていきました。
最初はただ『熱心で真剣』と見えた表情に、いまは焦燥が混じっているように思えます。
そう、私には白菊さんが何かを急いでいるように見えます。
いつか、白菊さんはそのせいで取り返しの付かない怪我でもしてしまうのではないでしょうか―――私はそれが、心配です。
でも何故?
白菊さんは、何を急いでいるというのでしょう。
アイドルとしてスカウトされ、デビューの機会を掴んだ13歳の女の子がそれほどに焦る理由を、私は想像もできずに居ました。
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