21: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/01/04(木) 18:54:24.50 ID:R409ZOpN0
「―――もしも、明日晴れたなら」
私は、ゆっくりと微笑んで、口を開きます。
「私は白菊さんと散歩に行きたいかな」
「え……」
ぽかん。
まさにそんな擬音が浮かびそうな顔をする、白菊さん。
「白菊さんといろんな話がしたいし、私のことも知って欲しい。あのね、西の路地裏にとても可愛いカフェがあって、その近くにいつも猫が―――」
「いいんですか、それで」
咎めるというよりは面食らったような顔で、白菊さんが私を問い詰めます。
「明日―――死ぬんですよ。それでいいんですか。 もっと大事な友達と過ごしたり、遣り残した大事なことをしたり―――せずに。 私と散歩とか、猫とか―――本当に、それでいいんですか」
「うーん、どうなのかな」
「ど、どうなのかなって―――!」
私の答えがあんまりおかしく聞こえたのでしょうか。
白菊さんは困り果てているようでした。
けど、しょうがありません。
その答えは、私の本心だったんですから。
「私ね、明日の夜私が死ぬなら―――なんて、いま初めて考えたの。 だから、白菊さんは凄いなって思う」
曇った窓の外を見ながら、私は告白します。
年下の白菊さんの方が真剣にこういうことを考えているなんて、年上としてちょっと恥ずかしいですね。
「だから、いっぱい考えました。悔いの無い今日ってどういうことか。何を選んだらいいのか―――って」
本当です。 とてもいっぱい、考えたんです。
「でもね、困っちゃったんです。 大事なものは本当にいっぱいあるから……どんなふうに過ごしても、どれだけものを片付けても、何を選んでも、私はやっぱり最後は心残りでいっぱいなんだろうなあって」
白菊さんの瞳を、見詰めます。
「だから、いま気になってる白菊さんをお散歩に誘いたい。 そんな普段通りを、大事にしたい。そして失うものを惜しみたい―――それが、私の答えだったの」
白菊さんが、口を噤みます。
ほんの一瞬、その表情に痛みが見えたような、そんな気がしました。
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