22: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/01/04(木) 18:54:53.97 ID:R409ZOpN0
―――何を選んでも。
どんなに準備をしたとしても、心残りはきっと消えません。
「白菊さんが選んだ道は、立派なんだと思う―――だけど、思うの。 白菊さんもきっと、同じなんじゃないかって」
「同じ―――?」
「だって、私を助けた後の白菊さんの顔は、とても寂しそうだったもの」
「……」
白菊さんは俯いて自分の膝に顔をうずめました。
細い肩が、震えています。
―――あのとき白菊さんは、寂しそうでした。
人を助けられたという安堵でもなく、思い残しはないという満足ではなく。
ただ、寂しそうに見えたのです。
白菊さんにも、思い残しがあった。
「でも、それはきっと、当たり前の事なの」
そっと、そっと、思ったままを紡ぎます。
「どんなふうに過ごしても、どんな人でも、きっと悔いは消せないんだと思う。だから適当に生きていいってことじゃなくて―――いつもどおりの自分を好きでいることも、とっても大事なんだって、思うよ」
悔いが残らないように過ごすには、どうしたらいいんだろう。
今日を大事にするって、どういうことなんだろう。
そういうことにおいて、私が思ったことと白菊さんが思った事は、同じことだったと思います。
それはきっと、カップの内側と外側のように同じ事柄の2つの面なのです。
「だから、自分が笑顔になれること。 心が温かくなることを今日選んだっていいって、私は思ったの―――ね、明日、一緒に散歩に行きませんか?」
「―――でも、きっと明日は雨です。 窓の外はあんなに曇っているんですもの―――」
顔を伏せたまま、震える声で言う白菊さん。
私はそっと手を伸ばして、おそるおそるその手を握りました。
「そしたら白菊さんの部屋にお邪魔したいな。 私のおうちにご招待して、一緒にお夕飯するのも素敵―――もし、白菊さんが『うん』って言ってくれたら、私は明日がとっても楽しみ」
「―――」
白菊さんは小さく肩を震わせながら、頷いてくれました。
「―――ねえ、今日から貴女のことを『ほたるちゃん』って、呼んでいい?」
白菊さんは小さくしゃくりあげていて、頷いてはくれませんでした。
そのかわり、きゅっと私の手を握り返してくれたのです。
ありがとう、と小さく言って、私は窓の外の曇り空を見ました。
窓の外、遠い空には触れることが出来ません。
人の心もきっと同じです。
本当に誰かの心を理解して、それを導いてあげるなんてことは、私にはきっと出来ないのでしょう。
もしかしたら、誰にもできない事なのかもしれません。
だけど、せめて少しだけその心を暖かくすることができたら。
そう思わずにはいられませんでした。
私とほたるちゃんは、ドアが開くまでの間、ずっと手を握り合っていました。
握り合った手がとても暖かかったことを、私は今でも覚えています―――。
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