20: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/01/04(木) 18:53:53.71 ID:R409ZOpN0
◇
―――結局私は、皆は、知らず勘違いをしていたのだと思います。
長い告白を終えて俯く白菊さんを見詰めて、私は自分の気付きが正しかったことを知りました。
不幸。
白菊さんにまつわる不幸を他の誰よりも深刻に受け止めているのは、白菊さんなのです。
自分が誰かを不幸にするという体験をし、それを誰より信じているのは、白菊さんなのです。
だけど、私達にとって、それはただの『噂』だった。
だから無意識のうちに、白菊さんが自分の不幸をどう思っているか、軽く見積もっていたのではないでしょうか。
『偶然だ、私達は気にしない』というのは、白菊さんにとって慰めではなく、目の前に迫る嵐を『見えない』と言われているのに等しかったのではないでしょうか。
白菊さんは、自分の不幸を誰より真剣に受け止めている。
自分の不幸で自分が傷つかないなんて思って居なくて―――むしろ逆だったから誰かを助けに飛び込もうとした。
明日が無いかのように―――ではありません。
明日がないなら今日どうするか、と考えていたのです。
だから、人を巻き込みたくない。
だから、今日に悔いを残したくない。
今日に思い残しを無く生きて、今夜の眠りにつきたい―――
明日死ぬとしたら、どうするか。
私、高森藍子が明日の夜死ぬとしたら、どうするのか?
どうしたら思い残しの無い明日を迎えられるのか?
恥ずかしい話、13歳の白菊さんが何度も考えたというその問いを、今まで私は真剣に考えたことがありませんでした。
16歳の私にとって、死はまだとても遠い、姿も見えないものだと思われたのです。
明日が無いなら決して人を自分の不幸に巻き込むまい、決して思い残しを作るまい。
白菊さんの決意は、苦しんだ果てに下したものでしょう。
白菊さんがどういう人生を送ってきたかを知れない以上、本当の意味で私がその判断の軽重を図ることはできません。
では、私が明日死ぬとしたら。
悔いの無い今日は、どういうものなのか。
私は多分、このとき初めて真剣にそれを考えました。
―――そのとき、ふと。 ぐしゃぐしゃに潰れたシーリングファンの傍らに佇む白菊さんの表情が、私の脳裏に再び浮かびました。
あの、寂しげな表情を。
私は、そのとき自分がどうしたいか、解った気がしました。
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