12: ◆cgcCmk1QIM[saga]
2018/01/04(木) 18:47:20.00 ID:R409ZOpN0
A子さんの言葉は、続きます。
口を開いたら止まらなくなってしまった、そんなふうです。
「事務所でなにか良くないことが起きると、まっさきに『それは自分のせいだ』と言うのはほたるちゃん。 人が不幸に巻き込まれそうになったら、自分の身も省みず助けに入るけど自分はいつも無事で……巻き込んでごめんなさい、と謝る。 まるで―――まるで、不幸を呼んでいるのが自分だと確信してるみたいに」
そんなことが、沢山あったのでしょうか。
もしかしたら私の時も、白菊さんは自分の周りで何か悪いことが起きるに違いないと思っていて―――だから頭上に異変を感じたとき迷わず私を突き飛ばしたのでしょうか。
「だから、離れるのがいいんです。きっとそうなんです。白菊さん自身が私達から離れようとしているんだし、それが一番いいじゃないですか。 お互いのためじゃないですか!」
最後のほうは、叫ぶみたいでした。
俯いたままぜいぜいと息をついて沈黙するA子さんの肩に、私はそっと手をおきました。
彼女の身体がびくっとすくんだのが、解ります。
「私のためを思って、言ってくれたんだね―――でも、そんなことは言わないほうがいいと思う」
私の言葉に、A子さんの身体がこわばります。
「どうしてですか。 不幸なんて、偶然に違いないからですか。 同じ事務所の仲間同士、仲良くしなくちゃいけないからですか」
「ううん、違うよ?」
「じゃあ、どうしてそんな事を言うんですか」
「貴女が、とっても苦しそうな顔をしているから」
「―――!」
彼女は私に白菊さんの話をしている間、ずっと苦しそうでした。 言いたくないことを無理に口にしている、そんな顔を、していたのです。
「こんなことを言いたくない、って顔をしていた。ずっと辛そうだった。 だから―――言わないほうがいいって思う。貴女が傷つくから」
「私は、白菊さんのことで傷ついたりしません。苦しんだりしません」
「さっき、白菊さんの事を『ほたるちゃん』って呼んだでしょう?」
「―――!」
無意識の事だったのでしょうか。 A子さんは目を丸くして、さっと口元を隠しました。
「白菊さんの事、本当はそう呼びたいんだなあ、って思ったの。離れたくないんじゃないかって―――違った?」
だって、本当に恐がって、嫌いなら。 苦しむ必要はありません。
苦しむのは気になっているから。
苦しむのは、嫌いになりたくないからではないでしょうか。
「私だって―――」
A子さんはぶるぶる震えて、小さく、小さく声を絞り出します。
「私だって、私だって、私だって! こんなこと言いたくない! 信じたくない!」
彼女の瞳から、ぼろぼろと涙がこぼれます。
「だけど、だけど―――もう今は、恐いんだもの―――」
A子さんは人目を気にせず、わんわんと泣き出しました―――
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