【デレマス】サンタクロースの消失
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5:名無しNIPPER[sage saga]
2018/01/03(水) 22:46:30.09 ID:2D1W7Azp0
 気づいた時には、七海は空を飛んでいた。
 あまりにも強い力で引っ張られて、身体ごと宙に投げ出されたんだとようやく理解した。
 父さまの声が聞こえる。聞こえる声が遠ざかる。
 ああ、七海、釣られちゃったんれすか。まさにおさかなの気分れすねぇ。
 冗談めかして呟いたような気がする。そんな余裕なかったはずだけど、現実離れした状況の中で、寒空を風切って飛んで、落ちていく感覚が長過ぎたからかもしれない。
 夜の海は凍えるほど寒いから、七海も今は過剰なくらいに着込んでる。けれどそれらは全部、冷たい風や湿気をシャットダウンするためのものだ。真冬の海に沈むことなんて、最初から想定されてない。
 そして何より、七海は泳げない。
 ぼちゃんと大きな音が響いて、暗い海に放り込まれる。
 わずかに空いた襟や袖、ズボンの隙間から海水が滑り込んで、あっという間に全身をかちこちに冷やしてしまう。
 海水は目を開けるにも慣れが必要で、なんとかもがこうとしてみても、一瞬で凍るように固まった指先は全然動かなかった。
 周りには光もなく、月明かりを頼るにはあまりにもか細くて、永遠に引き戸が開かない真っ暗な押入れに閉じ込められたみたいだった。
『新人アイドル、夜釣りの最中に海難事故』とか、そんな見出しで新聞に載ったりするんれしょうか。
 冷たさに痺れる頭で強がってみるけど、どんどん全身が底に沈んでいって、そのたび闇が深くなって、どうしようもないってどこかでわかってしまっているのがこの上ない恐怖だった。
 ……今になって、思い出す。
 プロデューサーにスカウトされてアイドルになって、初めて自分の衣装を渡された日。
 七海を人魚姫みたいだって言ってくれて、じゃあ消えないようにしてくらさい〜、なんて笑って返したけど――ここで七海がいなくなったら、それでもプロデューサーは消えないように、沈んだ七海をまた釣り上げようとしてくれるのかな。
 必死に止めてた息も、もう保ちそうになかった。
 溺れるのは辛いと聞く。呼吸ができなくて、塩辛い海水が肺まで入って苦しいとか、そういう風に亡くなった人が、海ではたくさんいるのを知っている。
 こわい。こわい。
 生きたまま〆られるおさかなもこんな気持ちなんれすかね〜……。
 さむくて、さみしくて……ああ、死にたくないなあ……。
 泡になってく人魚姫みたいに、口からこぼれた息がぶくぶく昇っていく。
 それも途切れたら、本当に終わるんだろう。なんにも見えない海で目を開け続けるのも辛くて、だからきゅっと瞼を閉じて。
 やがて流れ込む海水が喉を満たして、苦しくて苦しくて怖くて嫌で叫びたくて生きたくて――


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