25:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:46:58.30 ID:IXrGOWADO
・白菊ほたるには毒がある
今年の冬はあまり雪が降らない。
それでも寒さは確実にあって、事務所に入るまでマフラーも手袋も外せなかった。事務所は暖房、効いてるといいな。
26:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:48:03.69 ID:IXrGOWADO
ガチャリと扉を開ける。
「おはようございますっ。……あれ、ほたるちゃんひとり?」
入ってすぐ、私の視界に飛び込んで来たのは、ドラセナに水をあげる白菊ほたるちゃんの姿だった。
27:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:48:34.09 ID:IXrGOWADO
まだほたるちゃんが、プロダクションに来て間もない頃の話。
不安そうで、全てに恐怖していて、おどおどびくびくした女の子が、新人だと自己紹介してきた。
申し訳なさそうに、すみませんすみませんと繰り返しながら。
所属事務所が三回倒産したと、私はとても不幸なんだと、いきなり言い出してきた。
だから、私には出来るだけ近づかないで欲しい、と。
28:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:49:09.19 ID:IXrGOWADO
……なんというか、また強烈な子が増えたなぁ、と思った。
聞けば13歳、そのくらいの年齢なら世界も狭いし、突拍子のない言動も微笑ましいものだ。
そう、思っていたのだけれど。
本当に彼女は不幸だった。
29:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:49:37.00 ID:IXrGOWADO
ふと姿を見かければ、大抵何かを謝っている。被害を与えている。
一緒にレッスンすれば、トレーナーさんが遅れる、ラジカセが壊れる。
バックダンサーをさせれば、機材は不調、照明は落ちてスピーカーは故障、衣装は届かず出演者は急病でバタバタ倒れる。
正直侮ってたけど、ここまで来ると本物だった。
どれも私たちのプロダクションは乗りきってきた道だから対処は出来たけど、ほたるちゃんの泣きそうな顔は晴れなかった。
30:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:50:15.73 ID:IXrGOWADO
生憎放っておける夕美ちゃんではないのだ。
「幸福の木……?」
事務所に来てしばらくして、私はほたるちゃんにひとつの観葉植物の植木鉢を渡した。
31:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:51:06.05 ID:IXrGOWADO
「その……私が育てたら……枯れるんじゃないかと……」
案の定、ほたるちゃんは唐突な無理難題に目を白黒させて、ついでにキョロキョロさせて、逃げ道を探していた。
「大丈夫大丈夫、ほたるちゃんに毒があるわけじゃあないでしょ?」
32:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:51:46.99 ID:IXrGOWADO
言ってることは詩的だけど本人は真剣。
こりゃ重症だ。この先この子はどうアイドルしていくんだろう、
と、考えて。
ふと、疑問に感じた。
33:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:52:35.12 ID:IXrGOWADO
毒があるなんて自己申告しといて。
近づかないでと願っておいて。
アイドルって、中心で輝く存在じゃないの?
何故、自分から振り撒く立場を目指すんだろう?
嫌味な感じの質問だけれど、私自身のために断っておくと、別にほたるちゃんを虐めようという魂胆は全くない。ゼロだ。不憫な子に笑ってほしくて近づいた。その点、私はアイドルだ。
34:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:53:11.96 ID:IXrGOWADO
「…………憧れ、なので……」
迷った挙げ句、出た言葉はたったひとつ。何の説明も出来てない、単語ひとつきり。
それだけで全てを説明しきれると、その目は語っていた。
逸らしっぱなしだった目を、はじめてしっかり合わせて、言ったのだ。
35:名無しNIPPER[saga]
2017/12/24(日) 02:54:02.10 ID:IXrGOWADO
「そっか」
夕美ちゃんはものわかりがいいのです。
「そっかそっか。じゃあさ、やっぱり」
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