40: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/12/12(火) 12:14:30.14 ID:UZlyT6fxo
「渇きであろう? 喉奥が焼けつくような痛み。空気に触れる度チリチリと、唾を飲み込んでも癒せぬソレは辛かろう」
「そうなんです……。あの、お水を飲んで来ても?」
「くっくっく、無駄よ。その呪縛とも言える飢えを満たす手段はただ一つ――」
言って、春香は百合子に見せつけるよう左手の人差し指をピンと伸ばした。
真っ直ぐに直立したその末節に、今度は右手人差し指の爪を押し付けるようにして立てる。
「……シッ!」
次の瞬間、彼女が指を払うと同時に左手の人差し指から鮮血が辺りに迸った。
一瞬、ほんの一瞬だけ世界を赤く染めた液体はテラテラとした床を汚し、空気を穢し、百合子の意識と嗅覚を犯す。
そうして今、傷口から溢れ出した血液は一筋の赤い川となって
直立する春香の指の先から彼女の手首へと流れ落ちる……。
ブラウスの袖を汚さないように捲りながら、春香がニヤニヤとした笑いを浮かべて言う。
「血だ……それも我のような力を持つモノの高貴なる血こそ最良のな。
この赤き輝きをもってして、お前の中の肉塊は正常な活動を続けるのだ」
だがしかし、この時の百合子には春香の言葉の十に一つもその耳に届いてはいなかった。
なぜならば、だ。
彼女の意識は砂漠で泉を見つけた者のように、長きに渡って夜道をさ迷い灯りを見つけた者のように、
闇夜の道路に軌跡を残す、深紅のテールランプのような赤色へと奪われ見惚れていたからだ。
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