モバP「藤原肇とおちょこがふたつ」
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14:名無しNIPPER[saga]
2017/12/01(金) 20:45:27.51 ID:n8reEq6Z0

彼女はどれだけ成長したことだろう。俺のいない間に何を知り何を学んできたのだろう。
彼女は何を生み出してきたのだろう。彼女の作品は何を訴えかけてくるのだろう。

女性の思い出は上書き可能らしい。であるならば俺のことなどとうに忘れているのだろうか。
バレンタインに下駄箱を確認するときのような、八割の諦めと、二割の期待がそこにはあった。

入場とともに俺の鼓動は最高潮に達した。
どうやらすでに肇は到着しているらしい。

他の作品などには目もくれず、いや肇の作品すらも無視して、入場した人の流れは一点に収束していった。
俺も人混みに飲まれたまま、抗うこともせずなすがままに流されていった。

展示室の一角、その"何か"を取り囲むように円形の空間がぽっかりと空いていた。
円周上にわらわらと人だかりができており、どうにかしてその"何か"を見んとて背伸びしたり、合間を縫ったりする人があふれかえっていた。

俺はたたらを踏んだ。次いで二の足を踏んだ。
人垣の頭の上、展示を照らすための照明が、
まるでスポットライトのように輝いているのが見えたからだ。

その中心に彼女はいる。円形の舞台のその中心に。
遙か昔、彼女が初めてステージに上ったときのことが思い起こされた。

あのとき俺は確かにプロデューサーとして舞台裏にいた。
しかし今は一人のファンとしてここにいる。俺だけが特別な存在ではないのだ。

その事実を否応無く突きつけられたような気がして、思わずその場に立ち尽くしてしまった。
大多数の人がそうだってのに、俺はなんてわがままで図々しい野郎なんだ。
何がバレンタインに下駄箱を確認する気持ちだ。厚顔無恥もいいところだ。

思えば、俺は自分の気持ちの整理をつけにきたのだ。長年の未練に折り合いをつけるためにやってきたのだ。
それを何を勘違いしたか、肇がこちらに気づいてくれやしないか、また元の関係に戻れやしないか、などという身勝手な妄想にすり替えてしまった。

まったく身の程を知るべきだったな。俺は鼻だけで大きくため息をついた。
この無理解が彼女のアイドルとしての道を閉ざしたのだろう。自省、自省、俺は深く反省した。

一目見たら、もう帰ろう。そう心に決めた。

そのとき、ふと人垣がかき分けられていくのが見えた。
解説を終えた彼女が、次の作品を紹介すべく移動しはじめたのだ。

間の悪いことに。

かき分けられた人垣の中心に俺は立っていて。

彼女はそこに向かっていて。

俺たちは、期せずして再会した。




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