モバP「藤原肇とおちょこがふたつ」
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15:名無しNIPPER[saga]
2017/12/01(金) 20:47:34.51 ID:n8reEq6Z0


「――。」

驚愕。
瞠目。
意外。
etc.

さまざまな感情がない交ぜになった表情がそこに現れた。
なかでも驚きの割合が大勢を占めていたように思う。

肇は臙脂色の作務衣に、薄く化粧をしただけの質素な格好をしていた。
アイドルだったころとはまるで正反対の、有り体にいえば地味な装い。
しかし、それがかえって彼女生来の美しさを強く際立たせていた。奇麗になったと、心からそう思った。

少し背が伸びたか、もしくは幼さが消えたためか、穏やか目がいっそう大きく、さらに優しくなっているように見えた。
その双眸の向かう先は、疑いようなく俺の顔で。射貫かれた俺はごくりと息を飲み、一言も発することができなかった。

彼女の口がわずかに動き、何か言い掛けたそのとき、俺の腕がぐいっと引っ張られた。

「もうちょっと離れて」

スーツ姿の学芸員に促されて、俺は再び"人混みの一人"に戻ることになった。
肇は口を「あ」の字に開いたまま、俺の行く先をじっと見守っていた。

なにか合図でも送ろうか。いや、それこそでしゃばりってもんだな。
こんな正面切って会うだけでも十分なのに、これ以上は差し出がましい。
もう満足。不満はない。俺の心は少し晴れ晴れとしていた。

「すみません」と言って俺は自分から後ろの方に下がっていった。
ほんとうに来てよかった。さて、あとは他の作品でも鑑賞させてもらうとするか。

「あ、あの、聞こえますか?」

澄み切った声。その透明度はマイクを通しても変わらない。久しぶりに声を聞いた。
どうやらマイクでもって解説してくれるらしい。まるでライブそのものだ。
こんな大勢来ているんだから無理もないか。

せっかくなので傾聴させてもらうとしよう。
肝心の作品が全く見えないのが残念なところだが。

「あの……、その」

何か口ごもっているようだ。愚かなことに俺はまた少し期待した。
でも同時に口にしない方がいいとも思った。

「次にご紹介するのは、この二つのおちょこなんですけれど……」

期待は無事裏切られた。俺はほっとした。



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