モバP「藤原肇とおちょこがふたつ」
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16:名無しNIPPER[saga]
2017/12/01(金) 20:49:34.17 ID:n8reEq6Z0

「このおちょこには、元となる試作品があるんです」

「その、"ぷろとたいぷ"っていうんでしょうか」

"プロトタイプ"とかいうまったく似つかわしくない言葉を使う肇に俺は笑ってしまった。どこで覚えたんだ。
しかし次の一言で一気に真顔に戻された。

「それは太郎坊・次郎坊というものなんです」

「底をみるとまるでスミレの花のような模様があるのでそう名付けました」

……覚えて。いたのか。

「普通はありえないんです。備前焼でそんな細かい模様ができるなんて。それも、二つも同時に」

焼き物のことはよくわからないが、俺にもあれは奇跡のように思う。

「ずっとそれを再現したいと思って窯から薪から試行錯誤を重ねてきたのですけれど、結局できませんでした。
ここにあるのも確かに自信作ではあります。でもあの"ぷろとたいぷ"には到底及びません」

"プロトタイプ"って言葉気に入ってんのかな……。

「あのときの初心、いわゆる純粋な心が私に太郎坊・次郎坊を作らせたのだと思います」

「今でも初心は忘れません。できることならあのころにかえりたいとも思います。
でも、そろそろ前を向かなくてはならないのかもしれませんね……」

語気がだんだんと弱まっていくのが感じられた。
はかなく寂しげなその声に周囲は少しざわめいているようだった。
その意味は俺にだけ分かると言ったら、生意気だって怒られるだろうか。

ふと人垣の中からひとつの質問が飛んできた。

「そのプロトタイプは、今どこにあるんですか?」

質問を受けた彼女がどんな顔をしていたか。
ここから窺うことはできなかった。



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