6: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/11/23(木) 20:46:05.59 ID:rdG/2M1Y0
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「ぷ、プロデューサーさん……その、お話があるって、伺ったのですが……」
「ああ、可憐。よく来てくれたな。その件なんだけど……」
劇場の事務室でパソコンとにらめっこをしているところを話しかけた。
顔を上げたプロデューサーさんは明るい話題を持ち出そうとしている表情には見えなくて、ちょっとだけ怖くなる。
プロデューサーさんと話せるっていうだけで浮かれてしまいそうになっていた私は、もうここにはいないみたいだ。
「最近、レッスンの調子はどうだ? トレーナーさんから話は聞いてるけど、可憐からも直接聞いておきたくてさ」
「え、っと……順調、では、ないと思います。全体曲は問題ないし、だ、ダンスもだいたい頭に入ってきましたけど……ちいさな恋の足音、が」
予想通りの話題。公演の趣旨を考えるなら、ソロがうまくいっていないことがすごく大きな問題だってことは、なんとなくわかる。
私の言葉を注意深く聞いている様子のプロデューサーさんに、嬉しいような、やっぱり怖いような、そんな気持ちが積もっていくのを感じた。
「やっぱり、歌えないのか?」
このままだといやな方へ話が進んでしまいそうで、返事をためらった。だけど、プロデューサーさんには嘘をつきたくないから、ゆっくりと頷く。
「……そうか」
「で、でも……ちょっとずつ、歌い続けられるように、なってきてて……この前は、ちゃんとワンコーラス歌いきれたんです」
「可憐……無理、してないか?」
今度は、すぐに首を横に振った。
無理なんて、していない。無理なんてしているはずがないのに、それでも心配されてしまう。重荷になってしまっているみたいで苦しかった。
歌うたびに泣いているという事実は、きっと私がそれだけ傷ついているように見せているのだろう。
うまく返す言葉を見つけられずにいる私に、プロデューサーさんは言葉を続ける。それは、致命的な一言だった。
「そんなに焦らなくたっていいんだ。何なら、今回の公演は休んだって」
「それは、嫌ですっ……!」
気づいたら、私は言葉を遮ってしまっていた。
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