7: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/11/23(木) 20:47:25.21 ID:rdG/2M1Y0
いつもは絶対にしない……というより、できない行為のせいか、辺りはしんと静まり返って、空気は少しずつ重たくなっていく。
普段なら自分のしでかした事を受け止められずに、おろおろとしていたかもしれない。でも今は、それ以上に私の意志をしっかりと伝えなきゃいけないって思うから。
「た、確かに、歌うたびに泣いちゃって、うまく歌えなくって、つらいって思うこともあります。もう、二度と歌えないんじゃないかって、不安になることもあります。でも……」
声が震えても、喉がからからになったように感じられても、それくらい言葉にできるようにならないと。
だって、言わなきゃ伝わらないんだ。
私はプロデューサーさんに手を引いてもらうだけの女の子でいたくなんてないって。
「歌いたくないって、もういやだって思ったことは、一度もありません……!」
「わ、私、必ず歌えるようになります。アイドルとして、プロデューサーさんに支えてもらってステージに立ってるんだ、って……誇れる私になりたいんです!」
アイドルでいたい。プロデューサーさんと並んで歩ける、アイドルでいたい。歌うことで、輝くことで、プロデューサーさんだって照らしたい。
貰うばかりじゃなくて、私からも届けられるようになって、笑いかけてほしいから。
プロデューサーさんに相応しい自分を、信じられるようになりたいから。
「頑張っていたいんです。頑張っちゃ、だめ……ですか……?」
「わかった。……信じるよ、可憐のこと」
その一言だけで、こわばっていた身体がほどけた。
それといっしょに心臓は今更ばくばくと大きく脈打つし、背筋のあたりがぞくぞくと喜んでいるような感覚に襲われるし、急に落ち着かなくなってしまう。
勢いで何を言ってるんだろう、しかも上目遣いで!
遅れてきた恥ずかしさと、それを受け入れてもらえた嬉しさがそのまま居心地の悪さに変換されて。
「あ、ありがとうございます。その、わ、私……頑張りますから、その……失礼しますっ…………!」
今度は必要なことだけ言って、大慌てで踵を返した。呼び止められたような気もしたけど、立ち止まる余裕なんてあるはずもない。
これ以上話を続けていたら、それこそ余計なことを言ってしまいそうで、ちょっとだけ怖かった。
急ぎ足を少しずつ緩めて、深呼吸してみる。まだまだ貰ってばかりだけど、信じるって言ってくれたから。
まずは応えて、返していこう。いつか、私からあげられるように。
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