37:名無しNIPPER[saga]
2017/11/22(水) 22:43:32.44 ID:290cDT/E0
◇◇◇
「いまのを避けやがるか……」
苦々しいレームの呟きを耳にしながら、彼の傍らで同じように雪上に寝そべっているココ・ヘクマティアルは難しく眉間にしわを寄せていた。
風向きの変化を感じる。それも、こちらにとって悪い方向に。
ココは戦場の空気を読む力に長けている。ヨナやレームの様な戦術的な視点ではない。もっと大きな視点ではあるが。
本来、敵のASを行動不能にした時点でこちらの勝利は揺るがない筈だった。
この状況で救援は望めない。彼らはおそらく精鋭揃いだろうが、兵の質はこちらも負けていない。勝敗を分けるのは装備の差だ。
それならば『武器商人の私兵』が負ける筈はない。
だが奇妙だ。敵の動きに鈍りがない。絶望的な状況を目の前にした、士気の低下がみられない。
(何らかの手段で救援を出す気か? いまから新たに歩兵を展開するのは無理だ。
ならばASを? いいや、M9とはいえ、トージョ達の襲撃地点からここまで1時間はかかる。
事前の情報で、分けた隊は二つだけというのは分かっている。近くに別働隊がいるということはない。
では、こちらの予想していなかった装備・手段で、救援に必要な1時間を縮めること……これなら可能か?)
もし仮にそうなら、敵の増援が到着した時点でこちらの負けだ。
"ヨルムンガンド"はこれ以上使えない。無理に使ったとしても、それではこの勝負を仕掛けた意味がなくなる。
残り時間の猶予はどのくらいだ? 敵は増援が来るまで耐えればいいのだから、現在は弾薬を節約して守勢に回っている筈だ。
操縦席の兵装ラックに収められる装備の量は限られている。積載されていた弾薬の予想数と、敵の発砲の頻度を比較。敵増援到着まで、あと――
うぐぐ、と呻きながらココは指先でインカムのマイクを摘まみ、口元に近づけた。
「各員、予定変更だ。あと15分で制圧できないとこっちが負ける」
『15分!? お嬢、話が違うぜ。1時間は余裕があるんじゃ……』
悲鳴を上げるルツ。声にしないだけで、部隊全員に動揺が走る気配が漂う。
「ごめん。想定よりも向こうの司令官が優秀みたいだ」
『卑下しないでください。ココは最高です!』
「ありがとう、バルメ――で、どうかな? 各員状況報告」
『難しいですよ、ココさん。相手はふたりですが、なかなか近づかせてくれません。弾薬も少ないだろうによくやる……』
『安全にやろうと思えば、時間をかけるしかないよ、ココ』
銃声を背後にワイリが呻き、ヨナが嗜めるように呟く。
向こうの戦況は厳しいようだ。
現在、戦場は2つに分かれている。ここから離れた木立の傍で撃ち合いをしているバルメ達と、ここで狙撃手を相手にしているレームとルツ。
レームと自分は盛り上がった雪の影に、ルツは雪上車を盾にしていた。
「レーム、ルツ。どっちかひとり、バルメ達の援護、できる?」
「無茶だぜ、ココ。頭を抑えられたのが痛い。そりゃ、精鋭揃いなのは分かっちゃいたけどよ、こんな化け物スナイパーがいるとは思わなかったぜ」
「レームよりも凄腕なのか?」
「超神兵の俺様よりもか? 冗談きついぜ。……だが、それを実戦で試したくない程度には凄腕だわな。"幽霊を呼ぶ"レベルかもしれん」
「幽霊? なにそれ」
「気にするな。狙撃手のお伽噺さ。ともかく、二人がかりで抑えるしかねえ。ルツ、頭を出すなよ。今はプレッシャーを掛け続けるだけでいい」
『それはいいけどよ、残り一人の警戒はどうするよ?』
ルツの疑問はもっともだ。現在、姿を現してるASの操縦兵は3名。ASは4機だったのだから、ひとりがまだ雪の下に潜んでいる計算になる。
(残り1人は脱出できない状況なのか? あるいは、ASで立て直す機を見計らっている?)
考えても仕方ない。潜在的な脅威であることに違いはなく、現状、それに前もって対処するには手が足りない。
「幸い、埋もれてる地点は分かってる。姿勢回復を始めてからでも対処はできるさ。
厄介なのはこちらに気づかれずに機体を降りて、奇襲を掛けられることだよ。各自、爆発ボルトの作動音に気を付けてくれ。
とはいえ、本質的に時間が足りないのは変わらないが……」
『ココが困ってるなら、是非もありません。仕掛けましょう』
無線の向こうから頼もしくもそう言い放ったのはバルメだった。
(あ、なんかデジャヴ)
『ヨナ君、ワイリ。援護を――片方を釘づけにしてくだい。もう片方を接近して仕留めます』
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