36:名無しNIPPER[saga]
2017/11/22(水) 22:43:04.44 ID:290cDT/E0
――寸前に、クルツ・ウェーバーは雪に潜り込むような心地でその場に身を伏せた。
その数センチ上を、確かな殺気と共に鋭い気配が通り過ぎていく。
連中の使っている自動小銃よりも口径の大きい、よく伸びる破裂音が耳に残る。間違いない、これは狙撃だ。
気づいたのは偶然だった。いや、偶然ですらない。なぜ今のが避けられたのかクルツにも説明できなかった。
だが、確かにそれは存在する感覚だ。自分はいま、複数の狙撃手に狙われている。
ずりずりと這いずりながら後退し、雪の起伏に再度身を隠す。立ち上がって走るような愚は犯せない。
雪の上でゴロゴロと体を回転させ、急ぎ狙撃された地点から移動する。
『ウルズ6、どうした!?』
再び木立に身を隠したクルーゾーが通信機越しに訪ねてくる。マガジンが空になった途端、私兵たちは再び火力を展開し距離を詰め始めていた。
「くそっ。すまねえ、ウルズ6援護不能。敵狙撃手に狙われてる。たぶん、例のデルタと警察上がりだ」
起伏の影から見てみれば、ここから50mほど下方に流された雪上車の影にひとり、さらに近くの起伏にひとり隠れている気配がする。
『あんたよりも凄腕ってわけ?』
「馬鹿言うなよ、姐さん。腕なら俺の方が上だ。一対一なら速攻で片付けてるぜ」
そう、片付けられないこともない。地の利はこちらが得ている。高所を取っている以上、単純な撃ちあいならこちらが有利だ。
問題は、相手が二人組ということだ。狙撃手と観測手で別れているのではなく、二人のスナイパーがこちらを狙っている。
狙撃手同士の戦いで、勝敗を分けるのはどちらが先に相手を見つけられるかということだ。
撃たれる前に撃つ。この鉄則は、スナイパーとの戦いにおいてはさらに意味が重くなる。
一発当たりの戦果が大きい――単純にいえば命中率の高い狙撃手に撃たれれば、それはほぼ確実な死を意味するからだ。
では現在のように狙撃手双方が相手を認識してしまうとどうなるか。
基本的には膠着状態に陥る。
こちらが相手を撃てるなら、それは相手もこちらを撃てるという状況であることを意味する為だ。
高所を取れば身をさらす面積を小さくできるし狙いやすくもなるが、この距離で相手の腕を加味すれば信頼できる盾とはならない。
腕はこちらが上だろう。地の利もある。勝つのは自分だ。だが、相手は二人。ボルトアクションライフルは構造上、連射が出来ない。
結論――撃ち合えばひとりは始末できるだろうが、次の瞬間には自分も撃たれて死んでいる。
(膠着状態だな。くそっ――まだか?)
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