相良宗介「HCLI?」
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38:名無しNIPPER[saga]
2017/11/22(水) 22:59:53.29 ID:290cDT/E0
◇◇◇

 ベルファンガン・クルーゾーは、俊敏で強靭な野生動物のように木の影から木の影へ飛び回っていた。

 カナディアンSAS出身の彼にとって、雪山はホームグラウンドだ。
 ミスリルに入ってからは披露する機会もほとんど無かったが、寒冷地訓練を受けた総時間数はこの中にいるSRTメンバーの中でトップだろう。

 寒さでかじかむ身体の末端。機動を制限する雪の枷。
 その全てを意にも介さず、クルーゾーは足を止めず自動小銃で敵を牽制し続けた。

 敵の方が数が多く、練度も決して低くない。こちらが足を止めたと見るや、即座に連携して取り囲もうとしてくる動きは脅威だった。

 偶然流された先が近くだったメリッサ・マオと共同戦線を張らなければ、あっさりと制圧されていたかもしれない。

(特に相良軍曹が言っていたあの少年兵は脅威だな。ジョナサン・マルといったか)

 こちらと相対する3人の内、最も若い小柄の少年。だが、動きは熟練の戦士そのものだ。

 山岳兵としての経験もあるのだろうが、なにより彼を兵士として成立させているのは天性のセンスと勘によるものだろう。
 アフガンゲリラとして育ち、人生の大半を戦場で過ごした結果としてスキルを積んだ相良軍曹とはまた別のタイプの少年兵だ。

 視界の端で、その少年兵が動きを見せた。最小限に身を晒し、クルーゾーに向けてライフルをフルオートで乱射してくる。
 
 クルーゾーは無理に応戦せずに後退した。すでに目を付けていた大木の影に最短ルートで滑り込む。

 数メートル離れたところにメリッサ・マオの姿があった。彼女も同じく、敵の猛攻に曝され、木を盾に耐え忍んでいる。

「ったく、景気よく撃ってくれるわね! ベン、そっちの残りマガジンは?」

「残りふたつ。それで終いだ。そっちは?」

「似たようなもんね。節約してぎりぎりってところだけど……そうさせてくれる相手でもないかしら」

 弾幕の僅かな隙を見つけ、メリッサが単射で撃ち返す。が、すぐに10数倍の数の弾丸が返却されてきた。

「これだもの。結構危うい状況よね。まあ、降参する気もないけれど」

「その意気だ。こちらでもフォローはする。あまり離れず――」

 クルーゾーは途中で言葉を切った。切らざるを終えなかった。

 背筋がぞくりと震える。雪の冷たさではない。そんなものには慣れている。

 だが――強者の殺気には慣れることがない。そのセンサーが鈍った者から、戦場では死んでいく。

 視界の端に黒い影がちらついた。こちらと同じく木立を盾に、凄まじい速度で、なおかつ恐ろしいほど静謐に接近してくる人影がある。

 ココ・ヘクマティアルの抱える私兵――ソフィア・ベルマー。ナイフ一本で軍事拠点を陥落させた怪物女!

 彼女は抜身のコンバットナイフと拳銃を手に、既に彼我の距離を10メートルほどに縮めていた。

 狂気の沙汰だ。自動小銃で武装した相手に、このような強引な接近を試みるなど愚かにもほどがある。

 それでもクルーゾーが相手を侮らなかった原因は、彼の武術家としての経験と戦士としてのセンスが齎した警鐘だった。

 曰く――あれは自身にとっての死神になり得る存在であると。

「マオ、使え!」

 弾の満たされたマガジンふたつを、メリッサに向けて放る。それだけで彼女なら状況を理解するだろう。


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