31:名無しNIPPER[saga]
2017/11/22(水) 22:23:49.59 ID:290cDT/E0
『データリンクへの仕込み、野戦砲の持ち込み、雪崩を回避するための準備――ここまで周到に準備しておいて、それが逃げる為だと思う?』
『ウルズ7よりウルズ2へ。こちらも雪崩れの直前にシステムに介入された痕跡がある』
≪正確に言えば"痕跡"はありません。外部からクラックされた感触はなし。どう考えてもシステムエラーとしか判断できませんが――≫
宗介の後を引き継いだアルの言葉に、メリッサが頷く気配が無線の向こうから漂った。
『状況から考えて、敵の仕掛けたトラップでしょうね。スパイがいるのか、枝を付けられたのか。
そもそもこっちだって電子攪乱を仕掛けていたのよ? それなのに、相手は砲手に位置情報を送っている。
具体的な手法の特定はできないけど、現実問題としてあたし達は相手の用意した舞台に上がってる――連中、ここでやるつもりよ』
プローブからの映像に変化があった。ヘクマティアルの私兵たちが雪上車両から降りて散開し始めている。当然、全員が武装していた。
このままでは不味い。倒れた状態で接近を許せば、まさしくまな板の上の鯉だ。
ヘクマティアルの兵器知識と例の爆弾魔の腕があれば、少量の爆薬で装甲を貫き、パラジウム・リアクターを破壊することすら可能かもしれない。
早急に対応を決めなければならい。クルーゾーはモニターに表示された各種データを手早く確認しつつ、指揮官としての頭脳をフル回転させた。
『ウルズ1、どうする? 損害を受けたとはいえ、M9はまだ動けるけど……』
メリッサのいう通り、M9の損害は大破というほどではない。戦車やAS相手に十全の戦闘行動は難しいかもしれないが、相手は歩兵だ。
戦闘力は著しく下がったが、それでも勝てない戦いではない。
問題は、相手が野戦砲を持ちこんでいるという事実である。
野戦砲自体が脅威なのではない。事前の情報が全て信用できなくなってしまったというのが厄介なのだ。
敵の武装は自動小銃が精々という前提が覆されてしまった。
あの雪上車両に大した余剰スペースはないだろうが、それでも折り畳み式の対戦車ロケットくらいなら積めるだろう。そして雪に埋まったASは良い的だ。
雪崩れによって圧縮された雪の重さは、一立方メートルあたり500kg以上。ジャックナイフ機動による機体姿勢の即時回復は難しい。
かといって普通に起き上がろうとすれば致命的なタイムロスが発生する。甘めに見積もっても、姿勢回復までに5秒はかかるだろう。
さらにそこまでして起き上がったところで、陣地が雪崩で押し流されてしまった現状、機動力は完全に死んだ状態だ。
また、野戦砲も完全に無視はできない。10kmという距離に加えて数はたった一門。砲手もひとりだけ。
この条件なら、本来は無いも同然の張りぼてだ。だが、あの砲兵の腕前は尋常ではない。
2発目、ないし3発目で直撃させてくる――そんな可能性を捨てきれないほどに。
(機体は放棄するしかない、が……)
機体を降りた後の問題が残っている。こちらは4名。向こうは5名。たったひとりの差だが、少人数であるほど人数差の影響は大きくなる。
さらに装備の問題もある。こちらはホルスターに収めた拳銃と、兵装ラック内の自動小銃程度しかない上、弾薬も乏しい。
対して先ほど見た私兵たちのタクティカルベストには、弾丸で満たされているであろうマガジンがいくつも差さっていた。
現状の戦力で敵を制圧するのは難しい。ならば追加の戦力が必要だが――
「ウルズ3、救援は可能か?」
問いかけに、βチームの指揮を取っているキャステロ中尉が苦い声音で返してくる。
『……難しいな。本来なら15分もかからんだろうが、この積雪じゃ……どんなに急いでも1時間以上は掛かるぞ』
無理だ。どれだけ弾丸を節約したところで、そんなに長時間撃ちあいができる筈もない。15分でさえ厳しいだろうに、一時間とは。
(……万事休すか?)
クルーゾーの表情に、初めて焦りの色が浮かんだ。
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