30:名無しNIPPER[saga]
2017/11/22(水) 22:22:30.97 ID:290cDT/E0
◇◇◇
――そこに、ココ・ヘクマティアルとその私兵たちが乗る雪上車は健在していた。
先ほどまでの地点から大分流されてはいるが、車両に目立った損傷はない。
雪崩の前と変わったのは、大きなオレンジ色の袋がふたつ、車両の横から飛び出して膨らんでいることだろう。
おそらく、あれは雪崩用のエアバッグだ。クルーゾーが知っていたのは人間用の装備だったが、車両にも応用できるだろう。
表面積を増やすことで雪崩れの中で浮く力を増し、飲み込まれる確率を下げることができる。そんな単純な仕組みの道具だ。
だが、およそあの規模の雪崩で役に立つものではない。あくまで補助用の、気休めの性能しかないものの筈だ。
「馬鹿な……あの雪崩をどうやって生き延びた?」
モニターを見つめるクルーゾーの疑問に、応える者がいた。
『指向性爆弾の衝撃波による、雪崩の回避……』
声はスペック伍長のものだ。プローブカメラの映像をデータリンクから共有したのだろう。信じがたいものを見たような声音で呻いている。
「ウルズ8。何かわかったのか?」
『ああ、多分。例の砲声の後に、別の爆発音のようなものが聞こえた。敵には例の爆弾魔がいるんだろ?』
ワイリ――ウィリアム・ネルソン。ココ・ヘクマティアルの擁する爆破工作のスペシャリスト。
かつての湾岸戦争において特殊任務に従事し、それを成功に導いた男。
だが此度の強襲作戦で、その存在はさほど重要視されなかった。こちらが出先で待ち伏せる側なのだ。彼の爆弾が脅威になることはない。
してやられたぜ、とスペックは毒づいた。彼はSRTの中でも爆発物に詳しい。他のメンバーに爆弾解体のレクチャーをしている姿を、クルーゾーも見かけたことがあった。
『何年か前に、小さい科学雑誌でそんな理論が発表されたんだよ。爆弾で雪崩を"割って"、安全地帯を作り出すっていう』
「待て。そのような大量の爆薬を仕掛けられる時間は無かった筈だが」
『雪崩そのものを吹き飛ばすんじゃないんだ。あくまで雪崩の先頭だけを裂いて、後から続く流れの向きを制御するって考えで。
つっても雪山登山に爆弾持ってく奴もいないし、そもそもロジック自体が理想論過ぎた。装甲を理論強度そのままで計算する奴いないだろ?
だから俺も一笑に付したし、いままで思い出しもしなかったんだが……』
「奴らはそれをやった、と?」
『信じられんが、そういうことなんだろう。とても正気とは思えんが。
雪崩だぞ? どんな"流れ"になるかなんて事前に予想できねえし、発破のタイミングも完璧に図らなきゃ雪の下。クレイジーの一言だぜ』
『手品のタネは分かったけどよ、これからどうするんだよ?』
割り込んできたのはウルズ6――クルツ・ウェーバーだった。
『このままだと、あいつら逃げちまうんじゃねえの?』
『いいえ、それはないわね』
クルツの言葉を、メリッサが一蹴した。
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