12:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 20:04:54.72 ID:5fkFdj7q0
「呆れた……そのために、私はこんなところまで連れてこられたのね?」
雪ノ下は頭を押さえて、やれやれという仕草をした。
13:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 20:06:03.66 ID:5fkFdj7q0
「あなた…まさか暗がりに紛れて、私に変なことをするつもりなのではないでしょうね。こんなところに連れてきたのも、助けが呼べないようにするためなのかしら」
「んなわけねえだろ。ほら、前見ろ、前」
14:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:06:41.19 ID:5fkFdj7q0
「湖?」
一瞬の逡巡の後、雪ノ下はそういった
15:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:07:43.62 ID:5fkFdj7q0
「水面、見てみろよ。目を凝らさないとわかんないかもしれないけどな」
雪ノ下と思しき影に、呼びかける
16:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:09:11.99 ID:5fkFdj7q0
「えーっとな」
そして俺は語り始める。ここに来た一番の理由を。
17:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:09:55.21 ID:5fkFdj7q0
覚えている。沈みかけた夕日に照らされたその少女は、駆け上がってきた俺に向かってこう言ったのだ。
『君も苦しいの?』と。
18:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:10:39.70 ID:5fkFdj7q0
涙と汗でグシャグシャになり、ただでさえ腐った目(まだ当時はそこまで腐っていなかったのかもしれない)がもっと見られないような状況になっていたのにも関わらず、だ。
自暴自棄になっていた俺は、その子に全てを話した。別に前から彼女の事を知っていたわけではない。初対面でしかも見るからにボロボロだった俺の、叫ぶような一方的な訴えを、彼女は黙って聞いてくれた。逃げたりはしなかった。
とても、優しかった。
19:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:11:27.07 ID:5fkFdj7q0
「この電灯が、時間になると消えてしまうってものさ、その子に教えてもらったんだ」
話している最中、いきなり消えた電球に怯える俺を、彼女はそっと抱きしめてくれた。耳元で囁かれた言葉が忘れられない。
20:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:11:58.38 ID:5fkFdj7q0
『暗いところだとね、星が良く見えるでしょ?』
『君は今、暗いところにいるかもしれないけれど、でも、だからこそ、ほんの僅かな星の光だって、他の誰にも見えない光だって、君は見つけてあげられるんだと思うんだ』
21:名無しNIPPER
2017/11/16(木) 21:22:48.92 ID:5fkFdj7q0
今なら、その言葉の意味も分かる。あの頃、自分とそこまで年の変わらなかった少女が、こんな言葉を吐いたのかという驚きも、今になって漸く実感する。
誰かが吐いた言葉が、時間が過ぎ去った後になって、違う側面を見せてくるということは、よくあることだ。それは自分が成長した証だと言えるのだろうか。
それとも、ねじ曲がってしまった証拠となるのだろうか。巧妙な皮肉、遠回しな罵倒、そして、さりげない優しさ。俺は今までどれだけの物を見落としてきたのだろう。どれだけの感情から、目を背けてきたのだろうか。そんなことを思う。
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