19:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 12:58:03.39 ID:/E20kLoAo
いま、私が受け持っているクラスは6年生。
12歳――意外に大人びた部分と、まだまだ子供らしい部分とが入り混じる難しい年齢。
けれど、みんないい子ばかりだ。「アリス先生」と私を慕ってくれている。
思い返せば、ありすとまともに話をしたのは今日が初めてかもしれない。
20:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:02:45.80 ID:/E20kLoAo
――――
あれから、毎朝、ありすは約束通り私にタブレットを預け、放課後に受け取って帰る。
お願いします、ありがとうございました、といちいち丁寧な子である。
しつけが行き届いているのだろう。
21:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:05:01.77 ID:/E20kLoAo
「ええ、構わないわよ。どうぞ、座って」
私はパイプ椅子を取って、デスクの傍に置いた。
「あ、……すみません」
22:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:06:14.18 ID:/E20kLoAo
「あの、先生。……先生の名前、アリスっていうんですよね」
ありすはもじもじとしながら言った。私はフフフと笑って、
「そうだよ。ありす……橘さんとおんなじ名前ね。
23:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:08:39.54 ID:/E20kLoAo
「昔はそうじゃなかったんですか? からかわれたり、しましたか?」
「うん。からかわれることもあったし、もっと別の、フツーの名前がよかったって思った」
「私も、そう思います」
24:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:10:04.15 ID:/E20kLoAo
「でもね、やっぱり昔はアリスって名前、嫌だったなぁ」
高校のときの英語教師は、私をチャンピオンと呼んだ。
それが嫌で嫌で仕方がなくて、なるべく目立たないよう目立たないよう、できることなら透明人間になりたいとさえ思っていた。
それを変えたのは、同じクラスの男の子だった。
25:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:11:16.14 ID:/E20kLoAo
「そうなんですか」と、ありすはちょっと顔を赤らめた。「それで、その人は……?」
まんざら興味がないわけではないらしい。私はフフンと鼻を鳴らした。
「いまの旦那さん」
26:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:14:17.70 ID:/E20kLoAo
「あなたは? 名前の由来」
「ええ。恥ずかしいんですけど、母に聞いたら……」
――と、そのとき、ありすのタブレットが、短く振動した。
27:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:15:59.42 ID:/E20kLoAo
「ただ、かわいいからって。それだけですよ」
そのときの彼女の表情に、私は思わず言葉を詰まらせてしまった。
私が12歳の頃、きっと同じ顔をしていたから。
28:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:18:23.89 ID:/E20kLoAo
――――
秋口、ありすと放課後を一緒に過ごすことが多くなった。
「母は心配症なんです」と、ありすはよく話した。
29:名無しNIPPER[saga sage]
2017/11/09(木) 13:20:02.69 ID:/E20kLoAo
「ううん、そんなことないよ。先生も、橘さんとお話できて、嬉しいもの」
「そうですか」と、ありすはやっと表情を和らげる。
放課後、私たちはいろいろな話をした。
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