11:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 01:39:14.09 ID:h3AcEulr0
『……おい。何をした』
『ふふん……油断大敵。先生の第二ボタン、バッチリ貰ったかんね』
目じりをキラキラを光らせながら、少女は右手に握った黒のボタンを見せびらかすように高く掲げる。
卒業式と言えば第二ボタン。象徴的な青春の一幕。確かにそんな固定観念はあったが、いや、しかし。
『お前な……本当にもぎり取る奴がいるか。いいから返しなさい』
『ボタンっくらい別のを付けなよ。これはもう杏んのだかんね。絶対返さないもーん』
『またガキみたいなことを……はぁ。最後の最後まで、迷惑ばっかり掛けさせられるよ』
彼女が頭上に掲げる右手へと手を伸ばそうとして、男は思い直した。
こんなに楽しそうな顔をしている彼女を見るのは久しぶりだったからだ。前に見たのはいったいどれくらいだろうか。
あるいは、それさえも分からないほど前から、自分の選択が彼女の表情を曇らせてしまっていたのかもしれない。
そう思ったら、ボタンの一つくらいを惜しむ気持ちにはなれなかった。
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