鷺沢文香「偽アッシェンプッテルの日記帳」
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7: ◆FVs4HrY/KQ
2017/10/06(金) 20:51:56.92 ID:7+Q2lD4p0
数分で議論は決着したようでした。

一体どちらになったのか?
毛布から覗くと、両脇を美波さんと友紀さんに抱えられたPさんが、こちらへ近づいてくるのが見えました。

今回の心臓の痛みは、潰れるたかと疑う程に鋭いものでした。

心臓の激しい鼓動音がマットレスの中で反響して、枕を隔てているのに矢鱈と大きく聞こえていたのをよく覚えています。
それでも尚私はまだ酔っているフリをして、動向を静観するという極めて卑怯な選択をしたのです。

戦々恐々としながらも“ひゅーひゅー”や“青春だ”という賑やかしの声、所謂『ノリ』が場の空気を支配してゆくのを冷静に感じとっていました。
規範となるべき大人はどこにもいませんでした。

心臓の鼓動が最高潮に達したのを感じたところで、早苗さんに顔を覗き込まれているのに気付きました。
一かけらの良心なのか何なのか、この期に及んで“文香ちゃんが嫌ならやめるわよ?”と尋ねてくるのです。
無茶苦茶なことをしているくせに、最終的に私へ決定権を押し付ける手管の巧妙さには、率直に言って呆れてしまいました。

私に“嫌”などと言えるわけがないのに…。
私がPさんを拒むという形を採れるわけがないのに…。
そんなこと絶対にできない、したくないのです。
Pさんが傍にいて嫌なわけがなく、寧ろ嬉しいのですから…。

また、同衾とはいえども、このような状況ではそれ以上の『間違い』が起こる訳がないと、私だけでなく先輩方も思っていたという側面もあったのでしょう。
畢竟するに、そこまで見越しての誕生日プレゼントのつもりだったのかもしれません。

私はただひと言“嫌ではないです”と。
いやらしい気持ちを包み隠しながら、あくまで他責にしたいという魂胆が透けて見える答えでした。
今思い返してもやはり、反吐が出る答えです。

今思えばここが私の意思でどうにかできる分水嶺だったのに、見事に判断を誤ったわけですね。

私はベッドの縁ギリギリまで体をずらして毛布を捲り、Pさんのためのスペースを空けました。
そして本当に、ぐったりとしたPさんが私の隣に横たえられたのです。
仰向けに寝かされたPさんの呼吸は荒く、それでいて大層寒そうにしてらしたので、私は咄嗟に毛布を掛けました。
するとまた黄色い歓声が上がって、シャッター音が何度か響きました。
言い訳無用の同衾状態をカメラに収められる羞恥、私のために犠牲になってくれたPさんへの申し訳なさと感謝、そして、いつもよりも数段近くにあるPさんの体温と体臭…。
私の処理能力を大幅に超えた状況に、私は縛られたように側臥位のまま硬直し、ただひたすら彼の苦しそうな横顔を見つめていることしか出来ませんでした。

しばらくすればシャッター音は鳴り止み、皆さんはテーブルへと戻っていきました。
そして何事もなかったかのように再開される酒盛り。
酔っ払いの貴婦人たちはどこまでも移り気のようです。

外野からの視線がなくなることで、多少の落ち着きを取り戻すことが出来ました。

彼の呼吸も少しづつ穏やかになってゆきます。


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