鷺沢文香「偽アッシェンプッテルの日記帳」
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12: ◆FVs4HrY/KQ
2017/10/06(金) 21:01:13.33 ID:7+Q2lD4p0

“嫌いなわけない。そういうことではない”
“じゃあ、好きですか? 美波はPさんのこと好きです”
“美波、待つんだ”
“しー。皆が起きてしまいますよ?”

Pさんがどれだけ諭しても美波さんは柳のように受け流し、一層熱っぽい言葉を口にするのです。
微かな声量にもかかわらず、次第に二人の呼吸が荒くなっていくのが手に取るように分かりました。
そして言葉は段々と途切れ途切れになり…その途切れた瞬間、どうしようもないほどに彼女の艶めいた唇のイメージが脳裡に明滅するのです。

“ダメだ、美波、ダメだ”

Pさんはしきりに“ダメ”と言うものの、その言葉に力が籠っているようには感じられません。
そも、あの美波さんに迫られて拒める男性はいるのでしょうか?
普段とは違う彼女の湿りのある声には、女である私でさえ鼓動を早めてしまった程なのですから。

“ダメだ、文香が起きてしまう”
“文香さんが起きたらやめにしますから”

そこでいきなり出てきた自分の名前には、突然後ろ指をさされた心地でした。
よくよく考えると身じろぎ一つすれば、二人は止まったのかもしれません。
だのに、私の体はグレイプニルに縛り付けられたように微動だに出来きなくて。

“Pさんの、とても苦しそうです。美波がしてもいいですか?”
“これ以上はダメだ…美波…”
“しますね。Pさん。Pさん。Pさん”
“待て、美波。文香が、文香が。文香”

毛布の盛り上がりが一際大きくなり、そして、また元の大きさに戻る。
そのときだけ大きく開いた隙間から、毛布の中の空気が一斉に溢れだしました。
雨上がりの畦道を想起させる、多くのモノが混ざり合った臭い。…男性と女性の臭い。
狭くなった隙間からは美波さんとPさんの、呻き声のような呼吸が漏れ出てきます。
そして二人の盛り上がりは周囲に配慮するかのように、ゆっくりと一定のリズムで上下に動き始めたのです。

一体何の冗談かと思いました。
つい先程まで私と想いを通じ合っていた彼が、私が隣にいることを知りながら、他の女性と繋がっているのですから。
業界によくあるドッキリというものだったならどんなに良かったか。
夢であったら、ただの悪夢であったらどんなに良かったか。

その段になってやっと、私は取り返しのつかないところまで来てしまったことに気付いたのです。
声を上げて皆を叩き起こし、二人の行為を糾弾することも出来たでしょう。
しかし、それが何になるのか。

結局のところ、Pさんが美波さんを受け入れたという厳然たる事実は揺らがないのです。


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