鷺沢文香「偽アッシェンプッテルの日記帳」
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13: ◆FVs4HrY/KQ
2017/10/06(金) 21:03:43.79 ID:7+Q2lD4p0
マットレス内部のスプリングが軋む音が頭蓋の中で反響していました。
響く毎に、まるで脳幹にナイフを突き立てられている気分です。
そのナイフが胸まで達して、乳房を内側から切開され胸骨をむしり取られ、露わになった心臓が微塵切りにされてゆくよう。
心臓がただの肉片に変わると、次は肺でした。
握りつぶされ、くちゃくちゃにされて、もう二度と呼吸ができないのだと錯覚するほどに息苦しかったです。
それからもずっと、全身が消し炭になるまで電流で焼かれているようでしたね。

“美波、美波、美波”と、愛しい人が私以外の女の人と繋がりながら、私以外の名前を荒々しく、そして優しく呼んでいます。
もう彼の頭の中に、私のことなど一片たりとも残されていないことは明白でした。

“Pさん、Pさん、Pさん”
“美波、美波、美波”

美波さんがPさんを求めれば、Pさんも美波さんを求め、やがてその呼び合う声すらしなくなり、代わりに苦しそうに水を啜るような音が聞こえてきて。
毛布の盛り上がりは暗闇の中でもはっきりと分かるくらいに動きを増していきました。
もしかすると、起きないでいる方が不自然なほどに激しい動きだったかもしれません。
何度か美波さんの足先が私の脛を掠めたぐらいでしたから。
だというのに石のように固まり、身動き一つしないままの私がいました。
ココロとカラダがバラバラになってしまいそうな程辛かったというのに、耳も目を塞がず全神経を二人に集中していたのです。

二人の呻き声が重なって聞こえてきて、しばらくすると動きも止まり、後に残ったのは二人の息切れの調べだけ。
それも収まると今度は水を啜り合う音が長く…とても長く…。
そして…

“美波はPさんのことが好きです。愛しています”
“俺も美波が好##。美波、愛####”

私の体内で何かが破け散る音が確かに聞こえ、それからすぐに猛烈な虚脱感が全身を覆いました。
私にはその気怠さに抗う術はなく…。
瞬きするつもりで目を閉じ…。


また目を開くと夜はすっかり明けていました。


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