272: ◆Xz5sQ/W/66[sage saga]
2018/04/30(月) 12:57:36.43 ID:DgOgOi+x0
男は椅子に座ったままで伸びをすると、掛けてあった黒のジャケットに袖を通し、
組んでいた痩せ気味の足を解いてからやにわに立ち上がった。
「んじゃ、そろそろ出掛けてくらぁ。律子、留守番よろしくさん」
「一応伺いますけども、どこ行くんです? プロデューサー」
「もち、お仕事」
「……とかなんとか言っちゃって。いつも喫茶店のお世話になってるの、社長も薄々気づいてますよ」
女性には笑顔だけを返し、男はオフィスを後にする。
今、彼が立っている場所はありふれた雑居ビル内のワンフロア、そこを出てすぐに広がる廊下だった。
765プロダクション――というアイドル事務所の名前を耳にしたことはないだろうか?
もしなければ、それは男の営業努力が足りてない確たる証拠だろう。
彼の名は高木裕太郎。765プロ会長である高木順一郎の息子に当たり、自称、頭脳明晰でいなせな二枚目、将来有望なナイスガイ。
しかしその人柄を知る者たちからは、もっぱら役職である「プロデューサー」又は「プロデューサーさん」と呼ばれており、
他にも「ドジ」「間抜け」「お人好し」「嘘つき」、「お調子者の色キチガイ」など、など。おおよそ不名誉な肩書きには困らない生活を送っていた。
そんな高木が鼻歌なんて歌いながら、廊下の先にあるエレベーターの前までやって来る。
昇降ボタンを一押しして呑気に待つこと三十秒。
うんともすんとも言わない箱に「ちくしょう」と軽く舌打ちして。
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