266: ◆Xz5sQ/W/66[sage saga]
2018/04/22(日) 08:45:25.80 ID:YcDGP+Tn0
狭い玄関で靴を脱ぎ、暗がりの中手探りで電気のスイッチを入れた。
そうして明かりに照らし出された室内はみすぼらしいとまでは言えないが、
それでも庶民的な雰囲気からは到底脱することもできず。
押入れの中に畳まれた布団、ブンブン唸りをあげている冷蔵庫、
小さなテーブルは使い込まれ、置かれたテレビも古い型。
鮮やかさの欠片も転がらぬ地味な一室、独り暮らしの女性の部屋にしては随分と落ち着いた印象を見る者に与える部屋の中で、
窮屈そうにスペースを占拠している立派な衣装タンスだけが場違いのように目立っていた。
「……はぁ、疲れた」
ペタンと畳の上にお尻を下ろす。ぐでんと倒した上体を小さなテーブルへと預け、
その冷たさをほっぺで感じながら長い、長い、息を吐き出す。
誰にも知られてはいけないホントの自分。
"セレブ"という仮面を脱ぎ捨てた後に残る等身大の二階堂は、千鶴という人間は極一般的な生まれの女だった。
これが、彼女の抱える嘘だ。
世間ではセレブアイドルとしてブレイクしている千鶴の誰にも言えない秘密だった。
勿論、箱入りお嬢様が世間の厳しさを知るためにあえて……なんてバックストーリーなどありはしない。
その証拠に、千鶴の両親は娘が住んでいるマンションから少し行った先の商店街で元気に肉屋を営んでいる。
……だから実家が金持ちであるなどでもなんでも無い、ましてお嬢様であるなどとんでもない。
340Res/273.21 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20