204: ◆Xz5sQ/W/66[sage saga]
2018/03/13(火) 21:43:45.27 ID:N0yNt449o
チラリ。百合子は桜の木の傍に佇む顔見知りの用務員に目をやった。
朋花もいつものように扇子を取り出しパタパタ顔を扇いでいる。
しばらくそのまま待っていると、急に生暖かい風が二人の足元を抜けていった。
朋花がピシャリと扇子を畳み、それを合図に百合子も桃色の灰を手に掴む。
「それじゃあ行きます。……枯れ木に花を――」
「咲かせましょう〜♪」
朋花も音頭に加わって、百合子がぶぁっと灰を風に乗せるよう舞いあげた。
視界がたちまち桃色に染まる。細かく上がったその桃色は、空中であっと言う間もなく
見慣れた花びらに変化すると寒々しい枝を広げた老木を包み込むように流れていく。
まるで枝しかない桜の木に吸い寄せられていくようであった。
ぐるぐると空中で円を描く様は海中を泳ぐ魚の群れをも思わせる。
逢魔が時、昼と夜とが混ざり合う黄昏が照らすステージ上。
灰は舞台を彩る紙吹雪の如く辺りを満たして枝につく。
「はぁ〜……凄い!」
思わずそんなため息が漏れる幻想的な光景だが、同時に美しすぎる物はこれほどまでにも
人を空恐ろしい気持ちにさせるのだ――とも改めて百合子は実感した。
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