170: ◆Xz5sQ/W/66[sage saga]
2018/01/27(土) 10:10:04.18 ID:Dt1Jf1hJo
「だから、一人でも全然寂しくなんて無かったわ。
風に乗って鳥たちの歌が、お庭に咲いてるお花の香りが私を慰めてくれたもの」
けれども、イオリがその全てを姉に話すことは無い。
いいや、姉だけではなく誰にも彼女は話していない。
なぜなら耳が良すぎるあまり、ふとした瞬間に知りたくも無い
他人のウワサ話を聞いてしまうこともあったからだ。
誰しも人は裏の顔を持つ。
ある日、原因不明の病気によって自力では
ベッドから降りることすら困難になってしまったイオリ。
そんな彼女を姉のチヅルは心配し、普段から甲斐甲斐しく世話も焼いてくれるが、
一歩部屋を出たその先で何を口走っているか――そんな物を自分は聞きたくはないし知りたくも無い。
幸いにも自らが意識しない間は、この"能力"も病気になる前と殆ど変わらぬ人間並み。
だがひとたび"聞こえること"を知られたなら、
相手が以前のようには自分と接してくれなくなるであろうことの想像はつく。
……例えそれが、血を分けた肉親であってもだ。
感じる不満や愚痴を全て、心の中に仕舞ったままにできる者などいないだろう。
もしもそのような無理をしようとすれば、その者の表情は固くぎこちないものになっていく。
だからこそ目の前にある自分を見下ろす優しい顔が、
鳥籠のような部屋の中で過ごすこの生活の支えとも言えるその愛情が、
嘘偽りの無いものであると信じ続けていくためにも、
イオリは親愛なる姉に小さな嘘をつき続ける必要があったのだ。
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