169: ◆Xz5sQ/W/66[sage saga]
2018/01/27(土) 10:08:04.17 ID:Dt1Jf1hJo
トン、トン、トン。三度ノックし、「私だ」と声をかけるとややあってから扉は小さく開かれた。
チヅルを出迎えたメイドの少女がうやうやしく頭を下げる。
「ノエルは?」
「起きていらっしゃいます」
必要最低限の会話だったが、それはいつものやり取りでもあった。
勝手知ったる何とやら。
チヅルはしばしの暇を与えたメイドと入れ替わるようにして中に入ると、
部屋の奥に置かれた天蓋付きのベッドの傍まで移動する。
「お帰りなさい、お姉さま」
そうして、彼女を満面の笑みで出迎えたのは高貴な花を思わせる少女。
例えれば柔かな花弁を持つ薔薇のような……。
イオリーミナッセ・ノエル・ニカイドー。
名家ニカイドー家に残された二人姉妹のうちの一人。チヅルの実の妹である。
「帰ってらしたのは分かってたの。だってお姉さまの足音が聞こえたから」
「足音がかい? ノエル」
「ええ、そう。1、2、1、2……規則正しく響く音は、凛々しいお姉さまにとても似合ってるわ」
そう言ってイオリは目を閉じると、精神を集中させるように息を止めた。
一秒、二秒。再び目を開いた彼女が言う。
「私ね、病気になってから色々と鋭くなったのよ。特に耳や鼻がよくなったみたい。
お医者さんも話してくれたけれど、時々そういう人がいるんですって」
だがイオリは、自らの感覚が"鋭くなりすぎている"ことについては触れなかった。
実はベッドのすぐ傍にある大きな窓。それを僅かに開けただけで、
今のイオリは風に乗ってやって来る何百という音と匂いを聞き分け、嗅ぎ分けることにより、
その中から特定の誰か一人だけを見つけることだって(時間はかかるが)可能なのだ。
今だってそう。先ほど部屋を出ていったメイドが隣室で自分たちの為に特製のハーブティーを入れている様子が音で分かり、
匂いも同時に感じることで、瞼を閉じればその情景をまざまざと思い描くことさえできる。
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