168: ◆Xz5sQ/W/66[sage saga]
2018/01/27(土) 10:04:48.51 ID:Dt1Jf1hJo
そうしてリオは部屋の隅に控えていた使用人を傍に呼び、
新たな命令を言付けると一仕事終えたと言わんばかりに手をうった。
「さ、て、と……。残りの消耗品の補充だとか、
埋めなきゃならない欠員だとか、その手の話は従士ロコ?」
「は、はい!」
「アナタからでも訊けるわよね? チヅルはもう下がっていいわ。長旅で疲れてるでしょうし」
けれども、チヅルは退室の許可を与えられても動かない。
細かな報告を終えるまで自分の仕事は終わりではないと思っているのだ。
……リオがやれやれと困ったように首を振った。
その表情は強情を張る子供を諭そうとする母親のようである。
「お行きなさいアレクサンドラ。そうしてアナタの妹に、早く元気な顔を見せてあげて。
……ノエルったら、アナタが街を空けてから毎日のように祈ってたのよ」
自らの貴族名(セレブネーム)をリオに呼ばれ、チヅルは観念したように息を吐いた。
おまけに自分の留守中に、面倒を見て貰っている妹のことまで出されたならば従うよりも他は無い。
「……お心遣いに感謝します」
その場にロコを一人残してチヅルはリオの部屋を後にする。
扉を閉めるその直前に、リオの囁くような声が聞こえてきた。
「一人にされて緊張してるの? ……うふっ、見た目通りに可愛いのね」
また彼女の悪い癖が出たなとチヅルは思う。けれども誰が止めれようか?
辺境伯夫人エレオノーラが"様々な意味"でのやり手であることは世間一般に広く知られ
――だからこそ彼女は女の身でありながらにして、
国王より南方の全権を任されるほどの実力者としてのし上がったのだ――
この程度の息抜きは必要悪と言ったところ。
早々に扉の前から退散すると、チヅルは屋敷内にある別の部屋へと足を向けた。
その部屋は建物の離れと呼べる場所に位置しており、滅多に人は訪れない。
人けの無い静かな廊下を進んで行き、目的の部屋の扉を叩く。
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