152: ◆Xz5sQ/W/66[sage saga]
2018/01/21(日) 18:55:38.36 ID:kNu55X8Eo
「やくそくの、地へ……」
「……なに?」
「遥か南にあるらしい夢の土地……。私らに伝わる理想の国……!」
弱々しく紡がれるその言葉は、先ほどのお粗末な命乞いよりもよほど彼女の真に迫っていた。
剣先を相手の首筋に当てたまま、先を促すようにチヅルが訊く。
「ではなぜお前はそこに行かなかった。こんな辺境の村を食い物にしてお山の大将を気取る前に」
「……そんなん、行けへんかったからや」
「行けなかった、だと?」
「人間さんは知らへんの? 今じゃ南の国境は、クソッタレ共の一族が――」
しかし、とつとつと怪物が語り始めたその時だ。
二人の傍の茂みを鳴らしてこの場に現れた者がいた。
……一人はチヅルと同じように騎士団の鎧を着た少女。
そしてもう一人は彼女を先導するようにして現れた、
この場に似つかわしくない派手なドレスを着た女性。
「マスター! ヘルプに来ましたよ!」
「チヅルさん! ご、ご無事ですか!?」
怪物の顔が驚愕に歪む。その首筋に添えられた刃の冷たさも忘れたように大声を上げる。
「お前かっ!! お前がおったから私はこんな目に――!!」
だが……恨み言はそれ以上続かなかった。
彼女が動き出した瞬間「危ない!」と、
鎧の少女が手にしていた大槌を怪物に叩き込んだからだ。
辺りに鮮血と肉の崩れる音が弾ける。
物言わぬ塊と果てたヴァンパイアに、ドレスの女性が用意していた油を降り注いだ。
「下がって、火をつけます」
そこから先はもはや全てが後始末。
燃え盛る炎は三人を照らし、剣を収めたチヅルは駆けつけた二人に話しかけた。
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