【トトリのアトリエ】トトリ「一緒だね」
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2:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:21:55.84 ID:E5Im33K60
 涼しさに包まれた気持ちのいい午後だ。

 暑い暑い夏はもうすぐ終わろうとしている。あれだけわたしたちを照らしつけていた太陽の日差しももはや懐かしい。窓から爽やかな風が部屋の中に吹き込んだ。

 釜をかき混ぜる音とページを捲る音だけが静かに響く空間。この世にわたしたちとこの部屋だけがあるように感じられた。
以下略 AAS



3:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:22:25.03 ID:E5Im33K60
「ん、あ……」

 眠りから目が覚める、意識がゆっくりと起き上がってきた。
 あれ、いつもソファで眠るのに。珍しくベッドで眠っていることに気付く。

以下略 AAS



4:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:22:56.80 ID:E5Im33K60
「おはよう、ミミちゃん」
「さっき聞いたわ、おはよう。一緒に食べましょう」

 のろのろと椅子に座り、机に置かれたコップから水を飲む。わざわざ朝食を用意してくれたのか、申し訳ない。6時も回っていない。空もまだ白んでいる。
 ミミちゃんが作ってくれた朝食を一緒に食べる。わたしもミミちゃんも早く起きすぎてしまったな、どうしよう。まだ完全に起きていない脳で仕事に向かって行きたくない。早朝から朝へとちょっとした空白が生まれてしまう。
以下略 AAS



5:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:23:31.41 ID:E5Im33K60
 硝子のように澄んだ早朝の空気の中をミミちゃんと共に歩いて行く。すれ違る人も少しだけ居たが、ほとんどわたしたち二人だけの世界を、人気の無い道を歩く。昼には人で賑わうこの街が黙り込んでいた。なんだか夢の中のように現実味が無い。
 今もなにか言葉を交わすことは無い。ミミちゃんも、この空間に声を吐き出すことを嫌っているのだろう。わたしたちの間にはそんなものは無くてもいい。隣にいればそれでいい。

 どれだけの人間が、そんな関係を持つ人間を見つけることができるだろうか。いや、きっとありふれたもの、誰でも手に入れることができるものなのかもしれない。それでも、わたしはとても貴重なもののように感じていた。
 そうか、ミミちゃんとわたしはそんな関係になれたのか。


6:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:24:39.65 ID:E5Im33K60
 自然とわたしたちの足はいつも通り街の外れの並木道へと向かっていた。昼であっても通る者の少ない、街からいくらも離れた並木道にはもはや誰一人も見当たらなかった。そういう人達にとって、ここはいわゆる穴場なのだ。

 ゆっくりと並木道を歩く。ざわざわと葉を揺らし、体を透いて流れていく風が心地良い。薄着では少し寒さを感じてしまうけれど。
 ミミちゃんと手を繋いでこの並木道を歩けたならとても素敵だろうな。
 そうか、繋いでしまえばいい。
以下略 AAS



7:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:25:12.70 ID:E5Im33K60
 わたしが道を歩く時にはミミちゃんが隣にいてほしい。こんなふうに同じ道を歩くことが出来なかったとしても、ミミちゃんの存在を感じて繋がっていることが信じられるのならば、きっとわたしは歩き続ける。彼女はいつだってわたしに勇気をくれる。
 人は全く同じ道を歩くことはできないけれど、今わたしたちは手を取り合い並木道を歩いている。
 ミミちゃんと隣り合って歩く、なんでもない時間。大切な人と過ごす時間が、なんでもない日常が、何より大切であることをわたしは知っている。

「ねえ、ミミちゃん」
以下略 AAS



8:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:26:01.19 ID:E5Im33K60
 そんな気持ちを伝えようとミミちゃんを見たその時。とくん、と胸が揺れた。
 きらきらと零れる木漏れ日の輝きを背に、ミミちゃんはその端正な顔をわたしに向けている。
 艶のある黒髪はその木漏れ日を星空のように反射して。小さい顔にぱっちりと開く紫色の大きな眼、長いまつ毛、小さな鼻。柔らかな唇は優しく微笑んでいる。
 いつも見ているはずの彼女の顔が、やけにくっきりとわたしの目に映った。

以下略 AAS



9:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:26:41.85 ID:E5Im33K60
「一緒だね」
「……何が?」

 当たり前だけれど、とにかくで出してしまったわたしの唐突な言葉に彼女は戸惑っている。タイミングを逃して改めて言いたかったことを整理すると、言葉にするのが少し恥ずかしくなってしまった。
 わたしだけが知っていればいいか。笑ってごまかそう。
以下略 AAS



10:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:27:24.67 ID:E5Im33K60
 ミミちゃんは出会った時と比べてずっと優しい顔を見せるようになった。出会ったばかりの時のミミちゃんにはつんつんした態度でいつも怒っているような印象を持っていた。いつからこんなふうな顔を見せるようになったのかな。
 ふと、あの時彼女がわたしと出会えてよかったと言ってくれたときのことを思い出した。お母さんが死んでしまっていたことを知って、泣いていたわたしを優しく慰めてくれた時のこと。
 わたしが彼女を変えられたのだとしたら嬉しいな。うん、そう思っておこう。

 どうやら昇ってきた太陽の眩しさに目を細めた。赤褐色と灰色の煉瓦の敷かれた並木道が、葉の形でくっきりと明暗に分けられる。日に隔たれるはずのふたりの影は、繋がってひとつになっていた。
以下略 AAS



11:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:27:53.71 ID:E5Im33K60
終わり


12:名無しNIPPER[sage]
2017/09/16(土) 22:31:16.58 ID:3SYpI1Yg0
乙!


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