百合子「愚者の私に出来ること」
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6:名無しNIPPER[saga sage]
2017/09/15(金) 18:51:53.58 ID:GkhDt2Oq0
 だけど私は知っている。それを声に出してしまえば、そんな温い曖昧さを大黒柱に据えていた美術部という関係性はいつしか陽射しに焼かれて消えていく霧のように脆く崩れてしまうことを。

 誰かが言った。人の心に土足で踏み込むなと。誰かが言った。人の心に踏みいるには、相応の資格がいると。

 だから私がスーパーのおもちゃ売り場で駄々をこねて泣きわめく子供みたいに、生の感情をむき出しにして拒絶を口にして迎えるであろう、不安定な戦いの未来よりも、曖昧で、私一人が誰に踏みいることもせず得られる安寧を選んだ。ただ、それだけの話。

「うーん、私も皆と同じかな。受かってればの話だけど」
「アイドルやめちゃうんですか?」
「そうじゃなくて……なんて言えばいいのかな、勉強したいことがあるの。もちろんアイドルはやめなくて」
「じゃあ、二足のわらじってやつですか? すごーい、なんだか格好いい」

 そんなお世辞を口にすると、私への興味を失ったのかその子はさっき私たちが挙げた高校を受けるには自分の成績が不安だという新しい話題を展開して、仲のいい三年生が気むずかしくてあまり生徒に好かれていない数学の先生の名前を挙げて、その人のせいだとぐうの音も出ないほどに批難してみたり、一年生の子にたった十五年や十四年で得られた人生訓じみたものを語ってみせる。

 私はたまに相槌を打つ程度だったけど、その相槌が私のものだと認識されていたかどうかも妖しい。まあ、ただでさえさっきみたいな事情もあれば、一年生からすれば顔も出してない先輩のことを覚えていろと言うのも酷な話だろう。

 それに、私はアイドルになったのだ。事務所や劇場の皆と同じ夢を一丸となって追いかける時間は楽しいなんて言葉じゃとても言い表せないほど充実していて、私の青春は、全てここにあったといっても過言じゃない。


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