百合子「愚者の私に出来ること」
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7:名無しNIPPER[saga sage]
2017/09/15(金) 18:53:45.83 ID:GkhDt2Oq0
 だから、この話はこれでおしまい。

 盛り上げ役の三年生が音頭を取って始まったプレゼント交換に、毒にも薬にもならない一本のシャープペンシルを託して、私は誰かからもらった小さな小箱をコートのポケットに入れて、そそくさと席を立った。

 割り勘の分は、既にその幹事役の子に託している。だから、なんの問題もない。

 三月だというのに、小雪を纏って吹き荒ぶ寒風が、暖房で火照った体に刺さって、じいんと鈍く痺れたような感覚を残して彼方へと過ぎ去っていく。この場にとどまることを知らないそれは、どこか時間の流れにも似ている。

 そうだ、全ては時間の流れに押し流されて過去に消えていく。あまりいい思い出のない中学生活だったけど、いつかきっと、こんな苦い思い出もあったよね、なんて笑い飛ばせる日が来るはずなんだ――

「……あの」
「は、ひゃいっ!?」

 一人でわき上がってくる感傷じみたものに浸っていると、不意に後ろから声がして私は、そんな素っ頓狂な返事と共に自分でも驚くほど大げさにのけぞってしまっていた。

 慌てて背後を振り返れば、どこか見覚えがあるようなないような顔をした女の子が、どこか緊張した面持ちで直立している姿がある。

 黒い毛糸の手袋に包まれた小さな手の中には、晴れの舞台に添えられるものらしく桜色で彩られ、金色のシールで封がされた封筒を抱えている。そして私は、そんな贈り物に心当たりがある。だって。

 だって、それは私が買ってきたシャープペンシルだから。そして、これを持っているということは、美術部の誰かであることには違いはないだろう。

「……七尾先輩の絵、好きでした」
「えっ……?」
「……コンクールのです、それじゃ、すみません」

 たっ、とブーツの踵を鳴らして、その子は脱兎のように街中へと姿を消していく。



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