南条光「カンシャノアカシ」
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9: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 21:52:39.92 ID:dbtwVbjq0

 コータはかなりのスピードでビルから飛び出していく。
 光もそれを追い、人をかき分け、モールのドアを押し開け、青い空の下へと駆け出す。

 コータは大きな道路にかかる橋をずんずんと進む。
 光もそれを追うが、彼の脚力はなかなかのものだ。
 残暑の中、汗を拭くスーツ姿のサラリーマン、仲睦まじげに歩く若いカップル、ベビーカーを押したママ友達、アーガイル・チェックの洒落たキャメルカラーのキャリーケースをひくおばあちゃん。
 橋の上をいく人たちに気をつけながら、光もまたずんずんと進んだ。
 橋の先には、他の敷地より一階分高く整地された広場がある。

 コータが大きく左に曲がるのが見えた。
 広場にはところどころ背の高い木が植えこまれており、コータはその木に片手をひっかけ、ぐるりと回りながら、速度を落とすことなく、むしろ、加速を増して、一気に方向を変える。

「はぁ〜、やるなぁ!」

 そして、光もコータをマネて、遠心力を使って進行方向を大きく変えた。
 想像以上の重さが腕にかかり、身体の軸がたわむのを感じながら、コータが向かった先――広場から一階分低いつくば駅のロータリーに向けて、階段を駆け降りた。

 そこはバスターミナルになっている。
 コータは後ろを振り向いて、光の姿を確認すると、軽く叫んだ。
 キョロキョロと周りを見回す。
 すると、今にも扉が閉まりそうなバスが一つ、目に入った。

 コータは勢いもそのままバスの扉に駆け込んだ。そのまま、バスの扉が閉まる。
「ふぅー」とコータは一息つき、そのままバスが動き出すのを待つ。
 が、なかなか発車しない。発車しないばかりか、バスの扉が再び開く音さえした。

「ごめんなさい! ありがとうございます!」

 溌溂した声とともに、もう一人バスに乗る音がし、今度こそバスは発車した。

 息も整わないうちに、コータが顔を上げると、そこには光が困った表情で立っていた。

「これじゃあ、アタシが迷子になっちゃうなぁ……」




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